第58話 抜け出す勇気。DVのサイクルから抜け出す日

「キッちゃん!4時だからお散歩行こうか!」


私の唯一の幸せな一時。

この時間だけは何もかも忘れて思う存分楽しめる。

ゆうたさんが仕事に行ってから帰宅するまでは幸せな時間。あたしは笑顔で外の空気を吸いながら、ハァーッと息を吐く。


いつもの公園の周りをぐるっと一周。

大体40分位だろうか?

それが私とキッドの毎日の日課。


すると、1人のおばあちゃんがフラフラしながら私のもとに寄ってきた。

「帰り方が分からなくなってしまって…」「お家はどの辺りなんですか?」「確か、この辺だとは思うんだけど…」


このおばあちゃん、何処か顔色が良くない。

「家が分からない」

私はおばあちゃんが持っていたバックを借りて中身をガサガサと探した。


「…何も手がかりになるようなもの、入ってないですね…」「もうすぐ孫が学校から帰って来るんです。帰らないと…」「携帯とかも持ってませんよね?」「はい…」「どうしよう…」


高齢のおばあさん。きっと認知症を患っているのだろう。このまま1人にしたら事故に遭ってしまうかもしれない。


私はは沢山考えた末、警察に電話をしてここまで来て貰う事にした。

すぐに来てくれた二人組の男の人。


「キャンキャン!!ギャンギャン!!」「キッちゃん?どうしたの!?」「おぉー!元気なワンちゃんですね!ワンちゃんのお名…」


その男の人は、あたしのの顔を見て表情が変わった。


「ギャンギャン!!キャンキャン!」「キッちゃん!?」「奥さん、そのアザ…どうしました?傷も酷い。」「あ、いえ…、これは…。」「しかも、治りかけのアザもある。」「だ、大丈夫です!!」


すると、その男の人はおばあちゃんの相手をしていたもう1人の男の人と何か話をし出し、数分後…。

もう一台の警察車が到着した。

降りてきたのは今度は女の人だった。


「奥さん、ちょっと宜しいですか?」「は、はい…」「1人で抱えて来たのではないですか?悩んでは泣いて来られたのではないですか?」「え?」「隠さなくていいんです。」


「あなたはDVをされてますよね?」


「いえ、その…」「あなたは、こんな事をされる為に生きているんじゃないんですよ!?」


あたしの頬に涙がつたう。

そして、崩れ落ちる様に地面にしゃがみ込んだ。


「助けて…下さい。」


限界だった心が砕けた。本当は誰かに助けて貰いたかった。話を聞いて欲しかった。


「正直に話してくれてありがとうございます。」

「あなたを全身全霊守り抜きます。」


女の人はそういい、私とキッドを車に乗せると「警察署」に連れていかれ、詳しい経緯を話す事となった。

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