第55話 愛犬・主人からのDV

「キッちゃん!お散歩行こう!!」「キャンキャン!!」


我が家に新しい家族が増えた。とあるショッピングモールで一目惚れした可愛いチワワの男の子。

とにかく元気でやんちゃで…、どうしても家族に迎え入れたかった。


「ふふっ(笑)くすぐったい!!決めたっ!!この子、家族にしたいです!!」


名前は「キッド」と名付けた。強くて逞しくて…誰からも愛される人気者になるよう、そう名付けた。愛称は「キッちゃん。」


ぴょんぴょん跳び跳ねて歩く姿が可愛くて…唯一のあたしの癒しだった。


…そう。あたしの唯一の…。



「何でビールが冷えてねーんだよっ!!」「わ、忘れててっ…、今冷たいのを買って来ます!」「誰の金で買うんだ?あ!?俺の金をむやみやたらに使うんじゃねーよ!!」「あなたのビールを買いにっ…!!」「だからぁー…、口答えすんなって言ってんだろーがっ!!」


また始まった。一体いつまでこんな夜が続くのだろう。

結婚して2年目。最初の頃はとても優しかった。なのに、1年の記念日を境に、ゆうたさんは私に暴力を振るうようになった。

今では毎日…。



「ギャワンッ!ギャンギャン!!」「うるせぇバカ犬っ!」「グルルルッ…!!グルルルゥゥゥ…ギャンギャン!!」「この犬っ…!!」


「ケージに触らないで!!キッドは関係ない!!」「黙らせるんだよ!このうるせぇ犬をっ!!」「あっ、キッちゃん!!」「いってぇ!!」「キッちゃん!!」「この犬っ!!」「キャインッ…!!」「辞めてーーっ!!」


ゆうたさんはキッドの首を捕み、床へと思い切り叩き付けた。


「てめぇがこんなクソ犬買って来るからだろうがっ!!」「キッドになんて事するのっ!?」「噛んで来たバカ犬がわりぃんだろっ!?」


あたしが守らなきゃいけないのに、あたし達の喧嘩のせいでキッドを巻き込んでしまった。


(病院に連れて行かなきゃっ…!!)


「先生っ!キッドが主人に叩き付けられてっ…!!」「えっ!?」「先生っ!キッドは大丈夫ですかっ!?」「触っても鳴かないので折れたりはしていないでしょう。大丈夫ですが、心の方が心配です。今夜はずっと側にいてあげて下さい。急変したらすぐ電話下さいね。」「良かった…。」


この子はまだまだ子犬。

あたしが母親代わりとして面倒を見てあげなければならない。


あたしは、いつまでこんな生活を続けるのだろう?

愛情も何も感じられない人と、どうして生活を共にしているのだろう?


新しくこの子が我が家に来た今。

守るべきものが出来た今…動き出さなければいけないのに…。


「あれ…?キッちゃん寝ちゃったのかな?」


スヤスヤと天使のような顔で眠っているキッドをみていると、自然と涙が溢れてくる。

何も無くて本当に良かった…。


こうして、キッドとあたしの生活が始まった。






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