第53話 僕の余命。安楽死。

「良くない状態ですね…。」


あれから2ヶ月。僕はついに聴覚も臭覚も奪われてしまった。

お薬も、かおりさんに無理矢理口を空けて貰い、ゴクンと何回も失敗をしながら飲み込む日々。


「全ての機能が失われてしまっています。」「先生、キッドは…」「もって1ヶ月でしょう。」「…1ヶ月?」


診察台のウエディングドレス横たわる僕。

もう、何もする気力がない。

痙攣は24時間止まる事なく僕を痛め付け、身体を硬直させる。

その後の怠さが僕を襲い、僕は眠りへと入る。

ここ最近はその繰り返しのみ。


「最近、朦朧としてるんです。」「身体が限界なんでしょう。よくここまで頑張ってると思います。」「どうしたらいいですか?もう、辛いキッドはみたくないんです。」「…安楽死もあります。」「安楽死?」「確かにキッドちゃんは苦しむ事なく旅立てます。あなたの同意書1つで。」「苦しまないで…」


「でも、僕の病院ではお勧めしていません。どんなに大変でも、生きる限り頑張って欲しいんです。」


何を話しているのか、もう分からない。読み取る事が出来ない。

でも、かおりさんは僕を生かそうと頑張ってくれている。それに応えるのが僕の使命。弱音を吐いてしまうのは目を瞑って欲しい。その代わり、頑張って生きてみせるから…


どうか見捨てないで…。かおりさん。


「ありがとうございました。」「キッドちゃんのお母さんも、休める時は休んで下さいね。」「はい、ありがとうございます。」「キッドちゃんは生きます!必ず…。」


ここはどこだろう?ユラユラ揺られたから家なのだろうか?僕はフカフカのベッドに横にされ、かおりさんは何をしているのか分からない。


「キッちゃん、1才9ヶ月のお祝い、おめでとう。」


何でしょうか?僕には何も分かりません。何も聞こえません。

かおりさん、どこですか?側にいてくれてますか?


僕は…捨てられていませんか?


頭を撫でられている感触。温かいかおりさんの手の感触…。

幸せです。かおりさんが隣にいてくれるだけで、こんなにも幸せな気持ちになれるなんて…。


「…また痙攣だ。」


身体が強張って行く。嫌な強張り。またこの辛い思いが始まる。それでも僕は負けない。負けたくない。

生きる、生きたいんだ。


「座薬入れるね。」


かおりさん、きっと泣いてるのかな。こんな僕を見て、哀れだと泣いてるのかな。

ごめんね。謝る事しか出来なくてごめんね。


今夜はこのまま眠りにつきたいんです。

穏やかに、何も考えずに…。

そして、朝が来たらかおりさんにおはようと心の中で呼び掛けますから。


「キッちゃん、ごめんね。言葉が分からなくてごめんね。私が犬だったら、キッちゃんの苦しみも分かってあげれるのに。」


「あたしが犬だったらよかったのに。」


そして、翌朝。

「その日」は突然として訪れた。








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