第52話 苦しい日々。それでも生きる日々。
「ダメだ、また痙攣だ。」
ある日の朝。
僕は座薬をいれても痙攣が治まらない状態になっていた。
朦朧とした意識の中、僕はかおりさんの行動を黙って聞いている。
「今日は病院お休みの日なんだよね…、どうしよう。」
座薬を入れてまだ2時間。6時間は空けて下さいと言われていた座薬を使っていいのかどうかかおりさんが頭を抱えている。
「…そうだ!!MRIを撮った病院に聞いてみよう。」
かおりさんは僕の側でどこかに電話を掛けた。
「もしもし。あの、以前そちらでMRIを撮らせて頂いた者なのですが…はい、名前はキッド、オスです。」
すると、電話越しに聞こえてくる相手が女の人から男のおじさんに変わった。
「もしもし。朝早くからすみません。実は…」
かおりさんが僕の今の状態を事細かに説明している。
すると、電話越しのおじさんはかおりさんにボソボソと何かを伝えた。
「え…?あと3ヶ月…ですか?」
3ヶ月。それが何を意味しているのか、僕にも大体検討はついた。
「残りの余命 」の事だろう。
かおりさんは声を震わせながら必死に生きる方法を聞いていた。しかし、これが僕の限界なのだろう…。最後に聞こえたのは
「しっかり看取ってあげてください。」
この言葉だけだった。
電話を切り、かおりさんは僕の頭を無言で撫でる。
きっと、僕に悟られないように泣いているのだろう。
そんな合間にも、僕の痙攣は未だに続く。
「キッちゃん、座薬いれるね。」
鼻声のかおりさんがそう言い、僕に生きる為の薬を身体の中へ押し込んでくれる。
次第に眠くなり、意識が遠退いて行く中で「負けないで」というかおりさんの言葉が耳に入ってきた。
そして、僕はそのまま深い眠りへと堕ちていった。
目を覚ましたのは多分夕方。
「キッちゃん、おはよう!お外の空気吸いに行こう!!」
僕はまだ気だるい身体を残しながらも、かおりさんに抱き抱えてもらい外へと出た。
「もうすぐ1歳7ヵ月だね。」
昔は当たり前のようにお祝いしていたのが懐かしい。
こんなボロボロな犬になってしまったけど、それでもお祝いしてもらえるのは凄く幸せな事です。
「また、2人でケーキでお祝いしようね。」
はい。僕が生きている限りは2人でお祝いしましょう。
もう食べれませんが、形だけでも嬉しいんです。
かおりさんの僕へのその気持ちが…。
夜。
痙攣がまた始まった。
僕の体力はどんどん消耗されていく。
「楽になりたい」
そう思ってしまう時が少しずつ芽生えて来てしまう。
そんなんじゃダメなのに。生きなきゃ行けないのに。
「苦しい?キッちゃん。今、座薬いれるね。」
こうして、今夜も痙攣との闘いが続く。
僕の精神はもうとっくにオーバーヒートしていた。
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