第50話 1歳6ヶ月のお祝い。神様に見捨てられる日。
「1歳6ヶ月のお誕生日、おめでとう。キッちゃん。」
あれから3ヶ月。
僕はただの人形になってしまっていた。
痙攣が治まらず、座薬を入れる毎日。病院も1日に何度も行く日が増えた。
最近では、ご飯が上手く喉を通らずかおりさんにスポイトで水と流動食を無理矢理流し込んで貰う。
お散歩デートも外の空気と日差しを数分浴びる程度。
それでも僕は一生懸命息をしていた。
「おめでとう、キッちゃん。形だけでごめんね。」
いいんですよ、かおりさん。気持ちが嬉しいです。食べれもしないこんな僕に、ちゃんとケーキを用意してくれるのが逆に申し訳ないです。
ごめんね、かおりさん。
耳は聞こえるが、鼻は麻痺が浸透してきていて上手く作用していない。甘い香りのはずのケーキの匂いが、目の前にあっても届かない。
薬ではもう限界がある。あとは僕の「力」の問題。
どこまで頑張れるか…。
「キッちゃん、ミルキーちゃんに会いに行こう。」
かおりさんがそう言い、優しく僕を毛布にくるむ。ケージバッグにいれられた僕は大人しく車に乗り込み、いざミルキーちゃんのもとへ。
「お久しぶりです。」「かおりさん!…キッドちゃん。」「ミルキーちゃんに会わせたくて来ました。」「…そうなのね。上がって。」
ケージバッグから出された僕は、ミルキーちゃんの隣に寝かされクゥンと小さく鳴くミルキーちゃんに声を掛けた。
「会いに来たよ。約束、守れましたね。」「キッドさん…」「泣かないで、ミルキーちゃん。僕はまだ生きてるよ。」「会えて嬉しいんです。どんなキッドさんでもいいんです。会いたかった…。」
そう言って、ミルキーちゃんは麻痺をしている僕のお鼻にキスをしてくれた。
「…悪化してるのね。」「1年は持たないって…言われました。」「そんなの分からないじゃない!!」「でも…キッドを見てるのが辛くて…」「かおりさん…」
かおりさん、また泣かせてごめんなさい。
最近、毎日泣いているの知ってるんだ。でも、今の僕には駆け寄る事も流れる涙を舐めてあげる事も出来ない。
こんな姿になっちゃって、本当にごめんね。
「キッドさん、生きて下さい。」「うん、頑張るよ。」「私はキッドさんが大好きです。あなたがいなくなってしまったら、私は悲しみにうちひしがれる事になってしまいます。」
みんながこんな僕を「必要」だと言ってくれている。
それだけが今の僕の生きる力となっている。
情けなくても不様でも、それでも生きる。
1日でも長く、かおりさんの側にいてあげたい。
「キッドさん、次もちゃんと会うと約束しましょう。」「約束…守れるかな。」「約束して下さい。」「分かりました。ミルキーちゃん、次も必ず会おうね。」「必ず…必ずですよ。」
僕はこれからどうなるのだろう。僕は一人では何も出来ない。神様は僕を見捨ててしまったのだろうか?
僕は、いつまで頑張ればいいのだろう。
どうしたら頑張れるのだろう。
僕にはもう分からない。
だって、僕は…
犬なのだから。
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