第49話 約束の重さ。戦友の死。

「また来てもいい?」「是非!ミルキーちゃんも来て下さいね!」「ありがとう。」


別れの時。

ミルキーちゃんは僕とお鼻をすり合わせ、「またね」の約束を誓う。


「キッドさん、お元気で。」「ミルキーちゃんもね。」「また、必ず必ず会いましょうね?」「お泊まり、楽しかったです。はい、必ずまた会いましょう。」「約束ですからね。」


約束…。

必ず守りたいと思える魔法の言葉。

僕は約束が沢山ある。


ミルキーちゃんとまた会う事。

長生きする事、かおりさんを守る事。

そして、自分の中だけでの約束。


かおりさんを泣かさずにこの世を去る事…。


最近、自分の「死」を考える様になってきた。

マイナス思考なのかもしれない。でも、かおりさんを残して先にこの世を旅立つのはとても心配で仕方がない。

調子に乗ってると思われてしまうかもしれないけれど、かおりさんは僕がいないと生きていけない。そう思っている。


僕だって同じだ。「相思相愛」…、犬と人間だってこの言葉を使ってもいいと思っている。


飼い犬として、彼氏として、伴侶として。

旅立つ前に出来る限りの事をしたい。最近はずっとそう考えている。


かおりさんの悲しむ表情は、もう見たくない。

作らせたくない…。


「それじゃぁ、また。」


そう言ってサヨナラをした僕達。

またいつもと変わらぬ生活が待っている。

でも、それが何よりの幸せであって、かけがえのない日々。


僕は生きる。


そう思いながら今日も病院へ向かった。


「キッドちゃん、最近どうですか?」「発作は落ち着いてます。ただ、目は相変わらず見えなくて完全に歩けなくなりました。」「食欲はありますか?」「それはあります。」「名前を呼んだら耳を動かしますか?」


かおりさんと先生の話が続く。

僕は先生にお腹を抱えられながら立とうとするが、すぐにペシャンとなり力が入らない。

目は相変わらず右往左往していて車酔いの状態。薬でなんとか抑えられてはいるものの、それでも完全に治まってはくれない。


「キッドちゃん、凄く頑張ってます。このまま僕達も頑張りましょう。」「先生のワンちゃんはどうですか?」「…うちの子は…」「…え?」


「先々週亡くなったんです。」


同じ脳炎で闘ってきた仲間。

会ったことも話した事もないけれど、それでも勝手に「友達 」だと思い込んでいた。

「亡くなった」

そう聞いて、僕は自分自身が怖くなった。


「だから、余計にキッドちゃんには頑張って欲しいんです。」「そんな…」「あの子も凄く頑張りました。最期も看取れました。だから、あの子はもう辛い思いをしなくていいんです。」


「キッドちゃんに僕の想いを託したいんです。」


そう言ってくれた先生の声が震えているのが分かった。

そして、かおりさんも。


脳炎は完治しない。

だからこそ、いつ、何が起こるか分からない。

今の僕は、お薬によって「寿命」を遅らせてるだけ。

治りはしない。


だからこそ、しっかりお薬を飲まなければならない。

かおりさんの為に。


「何かあったらすぐ来て下さいね。」


これで今回の診察は終了。

お薬を貰い、家に帰宅したかおりさんは僕を膝の上に乗せながら一言だけ呟いた。



「絶対に死なせない」と…。





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