第44話 番犬として。ご主人様への忠誠心。
「ウオォォン!!ギャンギャン!!」「デリー!!黙れ!!」「グルルルゥッ!!」「デリー!ダメよ!こっちに来なさい!!」
デリーはご主人様を守りに行った。
きっと、小さい身体なのだろう。それでもこの嫌な現実から…ご主人様をあの男にそっくりな男から助ける為に、勇気を振り絞って吠え続ける。
「痛いっ!」「デリー!!」「グウゥゥゥ!ギャンギャン!!」「この犬がっ…!!」
その時だった。
かおりさんは僕をソファーに残し、急に飛び出した。
「かおりさん!!」「かおりっ!大丈夫か!!」「な、なんで君が出て来るんだ!!」
何が起きたんですか?何が目の前で繰り広げられているのですか!?
かおりさんは、何をされたのですか…!?
「デリーちゃんに罪はありません。蹴るのは辞めて下さい!!」「い、犬の癖に生意気だからだろっ!」「犬だって生きてるんです。動物だって家族なんです!」「言い訳するなっ!!どけないとお前も根こそぎ蹴飛ばすぞっ…!」「あなた辞めて!」「親父!!」
僕にできることって何だろう?
僕には何ができるだろう?
不器用で未熟な僕が、
あなたにできる事って何だろう…。
ほぼ自分の力では動けない僕が、全身の力を振り絞ってかおりさんに出来る事。
大好きな、大好きなかおりさんを守れる方法…。
「ギャインッ…!!」「キッちゃん!?」「な、なんだお前はっ!?」「キッちゃん!!キッちゃん!!どうしてっ…!?」
ありったけのエネルギーを出したら、何とか間に合いました。
這いつくばりながら、ソファーからドタンと落ちながら。
僕は…かおりさんを守れましたか?愛しい彼女を、男として守れましたか?
「キッちゃんを病院にっ…!」「わ、私が乗せて行きます!」「腹を蹴った位で大袈裟なっ!まだ話は終わっ…」「顔も見たくない!!声すら聞きたくもない!!」
遠退いていく意識の中で、かおりさんの怒声が聞こえてくる。
かおりさん…、もういいですよ。僕はかおりさんを守れただけで幸せなんです。
もう、終わりにしてお家に帰りましょう…。
「あなたもゆうたさんも最低な人間です。これ以上、あたしの大事な日常に近寄らないで!!入って来ないで下さい!!」
「私はあなた達がだいっ嫌いです!!」
僕は、デリーと共に車に乗せられ、病院へ。
すぐに検査が入った。
幸い、デリーも僕も大きな怪我はなく事なき終えた。
ただ…
「キッドちゃんの病気は進行しています。残りの余命は半年から長くて1年でしょう。」
先生のその言葉だけが耳に残った。
かおりさんは泣き崩れ、僕はグッタリとしたままかおりさんの腕の中で会話を聞いているしか出来なかった。
そして、帰り道…。
「大丈夫?」デリーが僕を心配して話し掛けて来た。「うん。デリーは?」「あたしはあなたのご主人様が守ってくれたから…。ごめんね。」「どうして謝るの?」「だって、痛い思いをさせてしまったから。」「かおりさんは優しいんだ。そんかかおりさんを僕は愛してる。」「そう…、素敵なお話ね。」
「かおりさん、ごめんなさい。こんな事になるなんて…」「キッドに何も無かったので大丈夫です。でも、金輪際私と…」「私、決めたわ。」「え?」「主人と離婚するって。」「…大丈夫なんですか?」「今回の事でハッキリと分かったの。私はあの人を愛してなんかいないって。」
「なんとなく、情で一緒にいただけなんだって。」
「そう…ですか。」「もう、あなたにも迷惑掛けないわ。ごめんなさいね。」「いえ…。」「もっと早く気付けば良かったのね…。」
犬の僕には、到底理解し合えない事が沢山ある。
でも、話を聞いてあげる事、寄り添ってあげる事、涙を拭き取ってあげる事なら出来る。
人間は奥が深い。
それを読み取るには沢山勉強していかなければいけない。
これからの僕にあとどのくらいの時間が残っているのだろう…?
考えても仕方がない。悩んでも仕方がない。
だって、僕は
犬なのだから…。
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