第43話 DV家系はDVへと繋がっていく。

「キッちゃん、ママから離れないでね。」

かおりさんが、僕の身体をギュッと抱き締めた。少しだけかおりさんが震えている。恐怖が拭えないのは仕方がない。

あんなにも、長い間酷い暴力や暴言に耐えたかおりさん。


僕が人間だったら、今すぐぶん殴ってやれるのに…


「かおりさん、着いたわ。」「は、はい。」「1時間でいい。時間になったら私が絶対帰してあげるから。」「宜しくお願いします。」


僕はかおりさんに抱き抱えられたまま家の中へと入る。


「ワンワン!」「デリー、静かにしててね。」「ワン!ワンワン!」「デリーちゃん、ごめんね。お邪魔します。」「かおりさん、リビングへ…」


かおりさんが歩き、リビングへと入ったのだろう。

「かおりっ!!」「…ゆうたさん。」「かおりさん、座りなさい。」「お義父さん、ご無沙汰しております。」「挨拶はいい。座りなさい。」


僕とかおりさんはソファーに座らされ、不穏な空気がリビングの中を張り巡らせていた。


「ワンワン!」「デリーをケージに入れろ!」「は、はい!」「いえ、出してあげてて下さい。デリーちゃんに罪はありません。」


すると、デリーは僕達が座っていたソファーにピョンと跳び跳ね、僕の顔をクンクンとしてきた。


「私と…仲良くしてくれる?」「え?」「私はデリー。犬種はヨークシャーテリア。友達がいないの。」「う、うん。別にいいけど…。」「私はこの家が嫌い。ママさんだけが私に優しい。人間の男の人は苦手なの。」「僕もデリーちゃんの飼い主の家族が嫌いなんだ。かおりそんとけっこんしていたゆうたって男なんだけど…」「ゆうたね。家の中では静かなものよ。だって、あの男が暴れるから。」


匂いだけで分かる。ゆうたとあの態度がデカい男は同じ匂いがする。乱暴で横柄で…凄く意地悪な匂いだ。


「かおりさん。妻から話は聞いたんだね?」「はい。」「ゆうたは反省した。カウンセリングにも通ってる。戻って来なさい。」「いえ、それは出来ません。」「…何だと?おい、どういう事だっ!!納得して連れて来たんじゃないのか!?」「あなた、かおりさんには新しい人生があるんです。もうそっとしといてあげて…」「この甲斐性なしがっ!!」


ガシャンッ!!


何かが割れる音が聞こえた。


「始まったわ。気に食わないといつもこうなのよ。」「かおりさんが結婚していた時と同じだ。」「これを…ママさんはずっと我慢してきてるのよ。」


「かおりさんとゆうたの前で暴れるのは辞めて下さい!!」「うるさい!かおりさん、ここに戻りなさい!」「それはっ…」「かおり、頼むよ。もう2度としない。誓うよ。」「…無理です。」「この女もなんてわからず屋なんだっ!!ゆうた、他にもいい女はいっぱいいるだろう!?」


荒れ狂う会話。

その中、デリーは僕が不安にならない様にずっと顔をペロペロしてくれている。


「大丈夫?」「デリーは大丈夫なの?」「もう慣れてしまったの。犬のあたしには何も出来ない。1度ママさんを守る為に逆らったけど…蹴られて終わり。」「同じだね。」「でも、めげないのがあたしのポリシーなの。」「ポリシー?」「あなた目が見えないのね?…ううん、逆に今は見えなくて良かったのかもしれない。」


「この家は狂ってる。」


デリーはそう言うと、何処かへと向かった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る