第42話 突然の訪問者。

翌朝。


僕が朝ごはんを食べているとお家のインターホンが鳴った。

「誰だろう?」かおりさんが「はい」と顔を出すと、


「お久しぶりね」


という女の人の声が聞こえ、かおりさんの「お義母さん」という驚いた様子の声も同時に聞こえた。


「どうして知ってるんですか?」「少しお邪魔してもいいかしら?」「え?あ、ちょっ…」「失礼します。」


サッサッという足音と共に、椅子に座る音…。

僕はクンクンと匂いを嗅ぐ。悪い人ではない。でも、なんだか嫌な匂いが染み付いている。

…思い出したくもない、あの頃の匂いが。


「何ですか?」「ゆうたがかおりさんと離婚してから落ち込んでしまってね。やり直して貰えないかしら?」「…は?」「充分反省もしてるし、2度としないと言ってる。だから、今度は私達と同居で暮らさない!?」


かおりさんの声が低い。

良い話ではなさそうだ。僕はごはんを食べ終え、そこにペタンと横になりながら話を聞いていた。


「お断りします。」「かおりさん!!」「私は今の生活に満足しています。もう二度とゆうたさんの顔は見たくありません。」「…随分冷たいのね。2年も一緒にいたのに。」「2年も我慢したんです!!帰って下さい!!」


かおりさんの怒鳴り声。

僕も一緒に吠えようかと悩んだが、どうやら相手がスワッテイタ椅子が動く音をした為、様子を視ることにした。


「この通りです!かおりさん、お願いします!」「お義母さん、辞めて下さい!!」「このまま帰ったら、主人に殴られるっ…」「…え?」「私なんか、何十年も我慢してきてるのよ。私だって…」


「主人からずっとDVを受けて来ているの。」


泣きながら訴えるその女の人は、何度も何度もかおりさんに「お願いします」と言っていた。


「お義母さん…離婚はされないんですか?」「逃げても逃げても追い掛けては捕まえられる。今日来たのも、主人から罵声を浴びせられて仕方なく来たの。」「何て…ですか?」「かおりさんを今日中に家に引き戻して来ないと殴るぞって…。」「そんな…」「子供は親の背中を見て育つ。かおりさん、ごめんなさい。ゆうたがああなってしまったのは、私達の責任なんですっ…!!」


「ゆうた」があの男の名前だと僕は知っている。

これは、あの男のお母さんに違いない。匂いが移っている。

ダメだよ、かおりさん。何を言われてるのかぜんぶまでは理解出来ないけど、どうしても僕には嫌な予感しかしない。


かおりさんを守る為にも、ここはどうしても…


「ギャンギャン!」「キッちゃん?」「ギャンギャン!!」「ワンちゃん…飼ってるの?」「え?えぇ…。」「我が家にも犬がいるの。かおりさん、お願い。ゆうたと寄りを戻さなくてもいいの。ただ数時間だけ我が家に来て主人と話をして貰えないかしら…」「…分かりました。その代わり、キッドも連れて行っていいですか?1人にしておけないので。」「ありがとう!かおりさんっ!!」


かおりさん、ダメです。行かないで下さい。

僕にはもう守れる力がほとんどありません。

かおりさん、ダメだ…。


しかし、僕の願いは虚しくも叶わず、かおりさんは僕をケージバッグに入れ、あの男がいる家へと向かった。



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