第45話 1歳3ヶ月のお祝い。嬉しい訪問者。

「キッちゃーーん!!」何ですか?今日はあまり体調が…


「1歳3ヶ月のお誕生日、おめでとうっ!!」


治りました。ケーキですね!?食べますとも!!

今回もお腹いっぱい完食しますよぉ!!


この家に来てから9ヶ月が経つ。

今ではあの時の面影等ない。老人の様に…いや、それよりも酷い。歩けず、なんとか這いつくばってかおりさんの元へと行く。


旋回行動がまた始まり、転びながらもその発作は止まらない。

薬の副作用で体重は平均よりだいぶ上の6キロ。

そして、このところ本当に疲れやすく、再び痙攣が出て来てしまった。


かおりさんには申し訳ないが、ほぼ毎日の様に病院へ行っては点滴や座薬をいれて貰い、なんとか凌いでいた。

両目も駄目、両方の後ろ足も駄目、大好きだったお散歩デートも今ではかおりさんに抱き抱えられてのみ。唯一、食欲だけが最後に残っている。それだけが取り柄になってしまっていた。


「番犬」


この言葉には程遠い僕がここにいた。


「今日だけは特別。沢山食べてね!」

今でしていた「待て」も、かおりさんはしなくなった。「お座り」がうまく出来ないからだ。


情けなくて、時折僕は涙が出る。

でも、かおりさんは毎日僕にこう言ってくれる。


「お願いだから生きて」「生きていてさえくれればいい」と。


だから、僕は生きる為だけに毎日を過ごしている。

どんなに憐れでも、どんなに見てくれが悪くとも、かおりさんの徒なりにいれるように。

「彼氏」としての名を残せるように生きていた。


「美味しい?無理して全部食べなくていいからね。」

麻痺側の口からボロボロと溢れてしまうケーキを拭き取りながら、かおりさんは優しく僕の頭を撫でてくれる。


「4時になったら、お外行こうね。明日はミルキーちゃんの所に会いに行こうか!」



「キャンキャン」とも思うように鳴けなくなってしまった。

口が上手く開かないのだ。どう頑張っても一吠え位しか出来ない。


疲れてしまう…。


「ほぼ完食だね!凄い食欲!!」

かおりさんに誉められ、上機嫌。そして夕方。僕はかおりさんに抱っこされていつものお散歩デートへ。


すると、久しぶりにちあきちゃんがこてつを連れて会いに来た。


「キッド!」「ちあきちゃん!こてつも!」

こてつは相変わらずうるさい。「ギャンギャン」と鳴きわめいている。


「こてつ、うるさいですよ。」「キッド、元気ねぇーなー。」「病気だから仕方ないです。」「病気なんかに負けんなよ。頑張れよ。お前は治りたいんだろ?」


治れるものなら治りたい。

でも、初めは抱いていた「治す」勢いも、ここまで来ると「頑張って生きる」が精一杯。


「お姉ちゃん、キッド大丈夫?」「うん、心配してくれてありがとうね。」「キッド、頑張って絶対良くなってね!」


みんなが言う。


「頑張れ」と…。


これ以上何を頑張り、どう生きたらいいのだろう。

まだまだ僕だって生きたい。頑張りたい。心を強く持っていたい。

でも、身体がついてこない。


「キャン」「キッちゃん、どうしたの?寒いの?」「キャン」「何か…あっ!!」「かおりさん。来ちゃった!!」


懐かしい匂いですぐに分かった。

僕はありったけの声を振り絞って「歓迎」の知らせをかおりさんに伝えた。






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