第26話 最近の僕事情。

「キッちゃん、行ってくるね!」「クゥン…」


今日もかおりさんはお仕事。僕はお留守番。

お散歩デート前には帰って来てくれるけど…とても退屈。

最近は走り周りたくても片方の手足に力が入らない。ズルッと滑ってしまう。


かおりさんは滑り対策として、全部のお部屋にマットを敷いてくれた。

それでも、ガクンと足が折れてしまう。

少しずつ悪くなっている事は、自分でも気付いていた。


それと。


僕の片方の目は全く見えなくなってしまった。

もう片方の目は、少しだけボヤけ始めているがまだまだ大丈夫!

ただ…ジッとしていれない時間が時折起こり…。

僕は家の中を右周りでグルグルと旋回して歩く。

理由なんてない。「落ち着いていられない」のだ。


それでも、お腹は空くし匂いにも音にもまだまだ敏感。

かおりさんが帰って来ればすぐ分かるし、ご飯の時だってバクバク食べる。

時間は短くなってしまったけど、夕方4時のお散歩デートもお手紙をちゃんと読み取れる。


嫌なお薬だって、最近は我慢して頑張って飲んでいる。

きっと…きっと良くなると僕は信じている。


あー…とにかく退屈です。

何してかおりさんの帰りを待ちましょう!?

僕はボロボロになってしまっていた虫の人形を手でチョンチョンしながらクワーッとあくびをした。


かおりさんいれば楽しいと思える家も、1人ではとても孤独で寂しい。

「負けない」と思える病気も「治るかな?」と、気弱になってしまう。

かおりさんの仕事お休みの日は必ず病院。

チックンされ、薬を行く度に増やされ…でも、かおりさんの笑顔の為に踏ん張っている。


頑張っているんだ。


「ただいまーっ!!」「キャンキャン!」「大丈夫だったかな?お散歩行けそう!?」「キャンキャン!」


まだまだお散歩デートは欠かせません!

ほんの少しのお散歩になってしまいましたが、それでもお外の空気を吸うのは気分が良いです!!


「…歩き方、酷くなってるね…」

かおりさんがしゃがみこみ、僕の歩き方を見て心配そうに言った。


「明日、病院に行こうね。今日はもうお家に帰ろうか?」「クゥン…」「もう少し?じゃぁ、おしっこだけしたら戻ろうね。」


本当は、最近疲れやすい。

きっと、無駄に家の中を旋回しているからと、片方の手足が不自由になってきている分、もう片方の手足に負担がかかっているから。

でも、犬として…歩けないなんてとても恥ずかしい事。

走れないなんて、とても情けない事…。


「頑張らなくちゃ」


そんな思いだけが僕の心を奮い立たせていた。


そして、病院の日。

先生は少しずつ悪くなっていく僕の病気に対し、ママしゃんに


「これからは、家で完全介護をお願いします。」


と言ったのが聞こえた。

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