第21話 かおりさんとのプチ旅行。

「壊死性白質脳炎かもしれません。」「壊死性…?」


壊死性白質脳炎。

犬種がほぼヨークシャーテリアとチワワに限定され、しかも体重2kg以下の小さな個体で発生率が高いとされており、主に若齢から中齢に発生。

壊死性白質脳炎の原因は不明と言われている。

その犬種の平均寿命までの生存は通常困難であり、多くが発症から半年〜数年以内に進行して亡くなっているのが実情である。


「まだ決まった訳ではありません。ただ、我が家で飼ってる子の中に壊死性白質脳炎を患ってる子がいます。うちの子はパグなんですが…」「キッドはどうなるんですか!?助かるんですか!?」

「お母さん、落ち着いて下さい。まだ決まった訳じゃありません。でも、精密検査が必要になります。」


難しい話をしてるなぁ…

まだかなぁ!?痛いのされる前に帰りたいし、おしっこもしたいんだけどなぁ…。


「この病院にはMRIの機械がありません。紹介状を出せるのは県外になりますが大丈夫ですか?」「構いませんっ!宜しくお願いしますっ!!」「すぐに行って検査をして下さい。」


こうして、僕は病院から帰って来て夕方4時の散歩デートへと出掛けた。かおりさんは何処か元気がなく、ずっと僕を見つめている。


「キッちゃん、明日新幹線で少し遠出するけど我慢してね。」

新幹線って何ですか?何処に行くのですか!?

かおりさんとお出掛けは嬉しいのに…。

どうしてそんなに悲しい顔をしているの?


散歩から帰宅した僕はご飯をペロリ。そしておやつをもらってかおりさんのお膝の上でウトウト…

チラリとかおりさんの顔を覗いてみると、何やら携帯電話を触っている。

そして、突然かおりさんが僕を抱き締めながら泣き出した。


「キッちゃん、もっと早く気付いてあげられなくてごめんねっ…!!」

ど、どうしたんですか!!何で泣いてるですかっ!?

僕、粗相してませんよっ!?


「明日、辛い検査があるけど頑張ろうね。キッちゃん。」

かおりさんはそう言ってギューッと僕を強く抱き締めた。

僕は、何でかおりさんが泣いているのか。

明日、自分の身に何が起こるのかも分からず、ただかおりさんの涙をペロペロと拭っていた。


そして翌日。

僕は小型のケージバッグに入れられ、かおりさんと一緒に変な乗り物に乗った。

ケージからは人間の足元しか見えない。

でも、車と違ってわっさわっさ揺れる事も、酔う事もせずウトウトしている内にその時は来た。


「初めまして。宜しくお願いします。あの…これ、紹介状です。」「えーと、キッドさんですね。どれどれ。」

いつもとは違うおじいちゃん先生。

僕の右手足や目を触り、何かを書いている。

「分かりました。では、ここでお預かりとなります。」「私はどうすれば…」「これから、首元から全身麻酔を掛け、暫くの間眠ってのMRIを撮ります。おそらく2時間程掛かりますので、それ位になりましたら待合室で座っていて下さい。」「…分かりました。」


「キッちゃん、頑張ってね。」

おでこにチューをされ、かおりさんは部屋を出て行く。

僕は若いお兄さん達に連れられ、高い台の上に乗せられる。

そして…

首元にチクリとした感触。

そこから僕の記憶は無くなった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る