第20話 失われていく視力。

こ、怖いです。


車から下ろされた瞬間に聞こえてくる「戦友」の断末魔。

「クゥーン…クゥーン…」「大丈夫だよ。先生に診てもらおう?」


前に来た所と同じ病院。お姉さんはまぁまぁ綺麗だけど、先生は嫌いです。

今回こそは噛みますからねっ!!


「キッドちゃーん」「はい。宜しくお願いします。」

名前を呼ばれ、僕は診察台の上に乗せられる。

ブルブルブルブル震えてしまう。…高い所は苦手ですぅ…。


「今日はどうされました?」「昨日初めて気付いたんですが、右側に顔を傾けるんです。」「ちょっと眼圧調べてみましょうか。」


凄く眩しい光が僕の両目を交互に照らす。

何度も何度も…先生は険しい表情で僕の右目を見つめた。


「これ、昨日からですか?」「いえ…気付いたのが昨日なんです。」「確かに右目があまり見えていません。」「えっ!?」「最近思い切り頭を叩いたり、何処かにぶつけたりはないですか?」「無いです。」


「採血を採らせて下さい。」


ブスッ……


「キャウーーーーン!!」

な、何ですか!?今回は手に何をしました!?お尻だと思って油断してたら、やりましたねっ!?

噛んでやる噛んでやるっ!!


「グルルル…ヴーギャンギャン!!」


「元気はあるんですが…」「キッドちゃんのお母さん。とりあえず暫く点眼薬で様子を見てみましょう。」「は、はい…」「悪化する様であればいつでも来て下さい。」「ありがとうございます。」


こうして、僕は1日2回、右目だけに「目薬」というものを目の中へと入れられる羽目になった。

…といっても、痛い訳でもしみる訳でもなく、苦痛ではない。


でも、この目薬をしても僕の目のボヤけは一向に良くならない。

むしろ、日に日に酷くなっている気がしていた。

ほんのりとだけ見える右目の視界。だから、お散歩デートの時もかおりさんを右側にして寄り添って歩く。


お家の中でも、右周りをしながら歩く。

そんな状態にかおりさんが不安に思ったのか、次のお仕事お休みの日、僕はまた病院に連れて行かれた。


「やっぱりおかしいんです。」「あれからどうですか?」「何となく、右側に傾き方が酷くなった様な気がして…。」

すると、先生はまた眩しい光を僕の両目に当てて来た。

あれ?片方の目が眩しくないなぁ。おかしいなぁ!?


「右目の視力が殆どありません。」「やっぱり!散歩をしてても、右側にあたしを付けて寄り添う様に歩くんです。」「歩き方なんですが、旋回する様に歩きませんか?」「家の中ではそうなんです。左周りをしてくれなくて…」


しばしの沈黙が続く。


そして、先生は険しい表情で口を開いた。





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