第16話 正義は勝つのです!
その日の夜。
「まだ晩飯も用意されてねぇのかよっ!!」「ごめんなさいっ…、用事があって外出していて。」「そんなもん数分で済ませろよ!このクズが!!」
また始まった。
僕は今日もケージから「ギャンギャン!」と鳴きながらあいつの事を注意する。
「飯は?風呂は?ビールはっ!!」「お風呂を先にっ…!!」「ビールが先に飲みてーんだよっ!」
今夜は更に機嫌が悪い。
僕はミルキーちゃんに届く様、懸命に声を張り上げた。
「ギャオオオーーン!!」「ギャンギャンギャオオーーーーーン!!」「…っせぇなぁ!!このボケ犬!!」
男がケージを開ける。
「辞めて!キッドには手を出さないでって約束したでしょ!?」「何言ってんだよ!俺との約束も守れてねーのに何が約束だよっ?あぁっ!?」「今すぐやるからキッドには手を出さないで!!」「何だ?その言い方はっ!?」
あいつがママしゃんの身体を振り回し、床へと転ばせる。そして、今度はティッシュBOXを投げつけ、足でママしゃんの頭を何度も押し潰した。
「痛いっ…、辞めて!」「ギャンギャン!」「どいつもこいつもうるせぇーなぁ。まとめて大人しくさせてやるよ!!」
ママしゃんが男に掴まれ、殴られる。
僕は足で蹴飛ばされ、「キャウン!!」と悲鳴をあげる。
助けてくれると言ってくれたのに。
どうして今夜もこんな酷い目に合うんですか!?
あの人達は嘘つきです。
あの人達は…
その時だった。
「ピンポーンピンポーンピンポーン!!」
何回も聞こえるインターホン。男は舌打ちをしながら玄関へと行く。
「ガチャ…」
あいつがドアを開けた瞬間だった。
「警察だ。」「え!?」「工藤ゆうただな!?」「はっ!?な何だよ急に!?」
「令状はもう降りている。暴行罪、及び傷害罪で逮捕する!!」
「ちょ、ちょっと待てよ!何も知らない癖にっ…!!」「何も知らない!?」「だってそうだろ!?逆に訴えるぞ?良いのか?」
すると、警察官さんはハァーッと溜め息をついた後、男を睨み付けながらこう言った。
「奥様の携帯はずっと繋がっていた。それが何よりもの証拠だ!!」
「け、携帯っ!?おい!かおり!どういう事だ!?」「これ以上近寄る事は出来ない!!署まで来て貰う!!」「この野郎!はめやがったなっーー!!」
今日会った女の人が、ママしゃんに駆け寄る。
「大丈夫ですかっ!?」「は、はい…。」「このまま病院へ。診断書を書いて貰いましょう。」「はい。」「ワンちゃんはちょっと待っててね。」
外は、犬の鳴き声が響き渡っていた。
ミルキーちゃんが助け船を出してくれていた。ありがとうミルキーちゃん。ありがとうお友達さん。
ありがとう。警察官さん…
そして、夜遅くにママしゃんは帰宅。僕は尻尾をブンブン振り回しながらママしゃんへと近寄った。
「ごめんね、キッちゃん。1人にして…」「キャンキャン!」「もう大丈夫。ママもようやく目が覚めた。2度とあの人は現れないからね。」
ママしゃんが携帯を取り出し、誰かに電話を掛けた。
「あ、お母さん?」
電話の相手はばぁばだった。
「…うん。逮捕してもらった。ごめんね、今まで沢山心配掛けて。」
「安心したわ。」
ばぁばの声が携帯から漏れて聞こえてくる。
「この先?キッドもいるし、ペット可のアパート探して住むつもり。…うん。少し離れた場所。」
「詳しくはまた明日ね。」そう言ってママしゃんは電話を切った。
「キッちゃん、今よりだいぶ狭いお家になるかもしれないけれど、我慢してくれる?」「キャウン!!」「ごめんね。でも、これからは2人で沢山笑って過ごそうね!!」
数日後。
引っ越しの準備をしている時、女の警察官さんが訪れた。
何やらママしゃんと話をしている。
聞こえたのは
「俺なりの愛情表現だと思っていた。」
という言葉だけだった。
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