第13話 我が家に新しい仲間が増えた。僕はこいつもあいつも大嫌いだ!!

…ママしゃん。こいつは何者ですか。

大きさは僕とあまり変わらないですけど…随分変な奴ですね。


「キャンキャン!!」「キッちゃん、怖くないよ(笑)大丈夫。」


ママしゃんがそう言い、ボタンを押すとそいつは「テレレレー♪」と鳴き、動き出した。


「ギャワワン!!ギャンギャン!!」「キッちゃん!怖くないよ!これはお掃除する奴!ゆうたさんが結婚記念日にプレゼントしてくれたんだよ!」


あいつがプレゼントですか!?

何か悪い仕掛けはありませんか!?こいつ、勝手に部屋中動き回って何様なんですかっ!?


「ルンバ」と呼ばれるそいつは、俺に近付いて喧嘩を売ってくる。…意外とすばしっこいのだ。


「キャンキャン!!」「あははっ(笑)キッちゃん、ルンバ嫌いかな?」

大嫌いです!!だって、僕まで吸い込もうとしていませんか!?

僕と同じ位の大きさの癖に、生意気です!

それに、音がうるさいです!!


あの男は、やっぱりろく物をお家に持って来ないです。

大嫌い認定です!!


「キッちゃんがお散歩の時間にしようかな?それなら大丈夫?」

…そうして下さい。ママしゃんも、僕がこいつに吸い込まれて居なくなったら悲しいでしょ?

ちょっと、こいつは強者です。


そして、夕方4時のお散歩デートの時間。

ママしゃんはルンバを放し飼いにして僕と外に出た。


「あっ、ミルキーちゃん!!」「キッドさん、ごきげんよう。この間は聞こえましたか?」「ありがとう!他の仲間も鳴いてくれて助かったよ!」「みんな、あたしのお友達ですの。」


ミルキーちゃんの犬脈は凄い。

でも、おかけであの夜は本当に助けられた。


「ありがとう。ミルキーちゃん。あの夜は助かったんだ。」「お役に立てて光栄です。また、何かありましたらいつでも言って下さいね。」


今日はここでお別れ。「またね」のお鼻クンクンをしあい、僕達は別々のお散歩コースを歩き出した。


そして…恒例の夜の時間。

今日はとにかくあいつの機嫌が悪い。何かにつけてママしゃんに文句を言っていた。


「今日のYシャツ、シワがあったぞ。」「ごめんなさい。気を付けます。」「弁当も米が固かった。しっかりやれろ!!」「はい。すみません。」「なんか、今日のお前はムカつくなぁ。」「そんな事言われてもっ…」「何だよ?また反抗すんのか?ルンバ買って貰ったくせに、感謝の気持ちが足りねぇんだよっ!!」


始まった。

あいつはママしゃんに皿を顔に投げつけ、「痛い!」と叫んだママしゃんは顔を両手で覆った。


「バーカ。それくらい避けろよ(笑)」「ゆうたさん、辞めて…」「お前がちゃんとやってれば、俺はこうなったりしねーんだよ!!」「でも、暴力はっ…」「暴力!?暴力ってのはなぁ、こうするんだよっ!」


今までで1番酷かったかもしれない。


ママしゃんは髪の毛を掴まれ、壁に何度も顔や頭をあいつにぶつけられていた。

僕は流石に震え上がってしまい、声も出せなかった。

「誰か助けて」

そう思うのに、手足がすくんでしまっていた。


そして、数分後。

満足したのか、男は笑いながら寝床へと去っていき、僕は床に雪崩れ込むママしゃんを呼んだ。


「キャンキャン!キャンキャン!」「キッちゃん…」

ママしゃんの目と目の間から赤いものが流れていて、顔は真っ赤に腫れている。ケージから出された僕はすかさずママしゃんの顔をペロペロと舐めた。


「大丈夫。大丈夫だよ、キッちゃん。」

ママしゃん、顔に傷がついてます。顔の色が変わってますよ?

こんな日が続いたら、いつかママしゃんはあいつに殺されてしまう。お願い、神様…


どうか、僕を人間にして下さい。


今夜のママさんの顔は、どんなにペロペロしてもしょっぱい味がした。そして、僕は止まらないママしゃんの涙をいつまでも舐め続けるのだった。







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