第10話 犬同士の井戸端会議。

「キッちゃん!8ヶ月のお誕生日、おめでとう!!」

朝ごはんを済ませ、ゆっくりとソファーで居眠りをしていた僕に、ママしゃんが今度はとっても美味しそうな匂いのするものを手にしながら近寄って来た。


「キャンキャン!!」「え?(笑)もう分かるの!?」


僕の大好きなクッキーが沢山ケーキの上に乗っている。

しかも、僕と同じ顔がケーキに書いてある。

これは…ヨダレが垂れます。


「キッちゃん、8ヶ月かぁ。もうこの家に来て2ヶ月が経つんだね。これからも宜しくね!」「キャンキャン!!キャンキャン!!」


「待て」シーーーーーーン。

今回も待ての儀式。


「いいよっ!!おめでとう、キッちゃん!!」

ハグハグハグハグッ…!!

今回は前とまた違ったお味で美味しいですねぇ。

おデブになっちゃいますよ?沢山お散歩デートしなきゃダメですね!ママしゃん!!


嬉しそうなママしゃんの笑顔に僕はケーキを食べながらメロメロ。こんな素敵なママしゃんが僕の「彼女」だなんて、僕は世界一幸せです!


「食べるの早いっ(笑)美味しかった!?」ママしゃんが僕の頭を撫でながら空っぽになったお皿を片付ける。


「今日はお祝いだから、多めにお散歩しよっか!お外もそんなに暑くないし、今から行く!?」

行きます行きます!!やったぁ!!


いつもと違う匂いがするお散歩デート。

まだ、お友達のお手紙が少ない。だから、今日は僕がお手紙を残して行く。


「あら!またお会いしましたわね!!」「おはようございます。過ごしやすくなりましたね!」

ミルキーちゃん登場。

僕とミルキーちゃんは挨拶変わりにお尻の匂いをクンクンしあう。


「キッドさん、今日は早いのですね!」「今日は僕の8ヶ月のお誕生日なんだ!」「まぁ!それはおめでとうございます!!私と1ヵ月違いなのですね!」「ミルキーちゃんは7ヶ月なの?」「はい。お互い、まだまだ元気に長生きしましょうね!」


ママしゃんはミルキーちゃんの御主人様と楽しくお話中。

僕は、ミルキーちゃんにふと思った事を聞いてみた。


「ミルキーちゃんのお家は、みんな仲良しなの?」「えぇ、ために喧嘩もしますが、みんないつも笑顔です。どうしてですか?」「僕の家は、いつも夜になるとママしゃんが男に殴られるんだ。何度も何度も…。でも、僕はケージからそれを見る事しか出来ない。」


すると、ミルキーちゃんの目からポロリと涙がこぼれた。


「ミ、ミルキーちゃん!?僕、何かした!?」「違います。こんな素敵な御主人様が、そんな事をされてるなんて…とても悲しくなってしまって。」「ミルキーちゃんだったら、どうする?」「私だったら…とにかく沢山吠えて助けを呼びます。いつまでもずっと吠えて。」「僕、一度それで痛い目にあってるんだ。だから、少しだけ怖いんだ。情けないよね。」「キッドさん…」


ミルキーちゃんは、僕の目を真っ直ぐ見た後、静かな声でこう教えてくれた。


「もっと大きく沢山吠えて下さい。私の耳に届くかもしれません。そうしたら、私も沢山吠えて助けを呼びます。」「協力してくれるの!?」「何の役にも立てないかもしれません。でも、私も出来る限りの声で沢山吠え続けます。」


「負けないで下さい。」


ミルキーちゃんに勇気を貰い、僕は今夜の戦闘態勢に挑む。

夕方4時の散歩を終え、僕のごはんが終わるとママしゃんはいつもソワソワし始める。


そして、僕も「ガチャっ」という玄関が開く音と、匂いで分かる。


「あいつ」が帰って来た事を…。

そして、今夜も始まるんだ。

見たくもない光景が。






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