あたらしい居場所

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「お待たせしました」

 一度家に帰ってから広場に戻れば、狗狼さんが待っていた。

 彼も私と同じく、舞白を送り届けてきたようだ。

 恐らく商売道具が入っているのであろう鞄以外、お互いになにも持っていなかった。

 そのまま二人並んで、黙ってそれなりの距離を歩く。


 辿り着いたのは、なんの変哲もない、二階建ての一軒家だ。

「意外?」

「少し」

 狩人には大きくわけて二種類いる。

 その地域にずっと住まい続ける狩人と、いろんな地域を転々とする狩人だ。

 たいてい前者は特定の人間とつながりがあることが多く、後者は、吸血鬼と一緒に住んでいることが多い。

 私たち杜矢は、後者だ。家は、同じように転々としている狩人同士で借りたり貸したりしている。

 逆に、私の記憶が正しければ、狗狼さんはこの地域に住み続けているはず。

 あまりそういった狩人と関わりを持ったことがないので、なんとなくもっとこう、立派な家に住んでいると思っていた。

 鍵を開けて家の中に招かれる。

 お邪魔します、と小さく呟いて入った家は、内装も特に変わったところはなかった。

「前は広い家だったけど、必要なくなったから、だいぶ縮小させた」

 これでもまだ、一人で住むには広すぎるけどな、と、軽やかに笑う。

「必要なくなったって……」

「あれ、知らないのか。ま、いいけど」

 狗狼さんは靴を脱ぐと、スリッパを二つ出した。

 片方を私の前に置くと、自分はもう片方をつっかけて、ペタペタと歩いていってしまう。慌てて私もスリッパを履き、そのうしろをついていく。


 廊下の突き当りにある階段を上がると、奥の部屋を案内される。

 ドアを開いて中を覗いた瞬間、私は思いっきり顔をしかめた。

「窓が一つもないんですけど、私は監禁でもされるんですか?」

 私をこの部屋に案内した張本人は、ケラケラと軽やかに笑う。

「申し訳ないことに、他の部屋は拷問道具で埋まっていてな」

「は?」

「冗談」

 笑えない。

 特に、この人の場合は。

「この家の中なら、どこでも出入りしていいけど、外に出たり、窓から外を見るのは禁止だから」

「監禁じゃないですか!」

「二人から距離を置きたいんだろ?」

「それとこれとどう――」

「偶然窓から彼らを見かけたら? 外に出て、彼らに出くわしたら? 君は、また同じことをするかもしれないだろ」

「……っ」

 なにも、言い返せなかった。


 勝ち誇ったような笑みを、狗狼さんはたたえる。

 ひっぱたきたくなったのを、拳をグッと握りしめて堪えた。

 それを見た狗狼さんの笑みがさらに深まる。

「どうあれ、あんまりホイホイ他人の家までついてくるなんて、警戒心の欠片もないんだな、杜矢の娘さんは」

「……流石に、最低限の信用はしていたから」

「まあ別に、閉じ込める以外はなにもする気はないから。ちょうどまとまった休みを取ったところで暇なんだ。しゃべり相手くらいにはなってもらいたいが」

「とうとう干されたんですか」

 ハハッと狗狼さんが笑う。

「お前の中の僕がどういう存在なのかは知らないが、吸血鬼や規約破りの狩人を始末した回数は、同世代の中じゃ僕は上位にいる。その上記憶も消せるから、干されることはないさ。記憶を消せなくならない限りはな」

 狗狼さんは、笑っている。

 笑っているのに、三白眼は、恐ろしいほど冷たい目をしていた。

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