第7話 幕間~初めての成長~

 僕のキャラクターシートに溜まった『未使用経験点』は、概ね公式で推奨される基本経験点と同程度だった。


(これは一応、ミッション成功と見做されたってことなんだろうか?

 それとも単純にゴブリンとの初めての戦闘経験によるものなのか、そこはもう少しサンプルが必要だな)


 差し当たっての問題は、この経験点を使ってどんな技能を習得するか、だ。

 元々ゲームでは、キャラクターは経験点を消費して【基礎能力】【ジョブ】【スキル】のいずれかを成長させることができた。

 いずれは【基礎能力】を成長させていかなければならないが、序盤では判定への補正が大きい【ジョブ】か【スキル】を成長させることがほとんどだ。

 ちなみに何故、将来【基礎能力】が必要かというと、【ジョブ】レベルを一定以上に上げるためには、その【ジョブ】に対応した【基礎能力】が前提条件として課せられるからだ。

 これは【スキル】も同様で、【スキル】の場合は【基礎能力】と【ジョブ】、二つが前提条件として課せられる。

 技術を習得するにはその土台となる基礎が必要という、ことなのだろう。


(ミレウスを作成した時、僕が完成形としてイメージしていたのは魔法戦士。

 回復魔法を駆使した高い継戦能力と、剣と魔法を組み合わせた一撃に優れた万能型)


 僕は根っからの最強厨である。

 特化した性能を持つ反面、相性や環境によっては能力を発揮できない尖った性能のキャラクターは、面白いとは思うが好みではなかった。

 どんな敵、どんな状況だろうと対応できる汎用性こそが僕の求めるもの。

 まあ、そんなものを求めたせいで、現段階では何一つ満足に役割をこなせない未熟者なわけだけど。


(だけど僕も、しばらくの間は役割を明確にして、その技能を伸ばしていくべきだろうな)


 しばらくの間は極力技能を一本伸ばし。

 ある程度その役割がこなせるようになってから、他の技能を成長させて行くのがベターだろう。


(後はどの方面を伸ばしていくか、だけど……候補は二つだな。

 スタンダードにファイターを伸ばして戦闘能力の向上。

 もう一つはシャーマンを伸ばして、ヒーラー、デバッファーとしての能力を獲得する)


 ファイター技能を伸ばすことについては言うまでもあるまい。

 やはり剣は男の憧れだし、戦闘能力の向上は急務だ。

 せめてゴブリンぐらいは余裕を持って倒せるようにならなければ、剣を持っていることさえ恥ずかしい。

 ネックはと言えば、シャーマン技能、スカウト技能の存在だ。

 精霊魔法やスカウト技能を十全に使うためには金属製の鎧は装備できないから、どうしても装甲は薄くなる。

 これは接近戦において極めて重大な欠点だ。

 例えば数時間前のゴブリンとの戦いで、僕が金属鎧を着こんでいれば、ゴブリンたちの攻撃など大半は弾くことができただろう。

 だが、だからと言って金属鎧を着こめば、せっかくのシャーマン技能、スカウト技能が死んでしまう。


 一方でシャーマン技能を伸ばすことはメリットしかない。

 シャーマン技能は低レベルでは直接的な火力には欠けるし、回復力もプリーストに劣る。

 だが、自然を利用した多様なデバフは腐ることがないし、ヒーラーはチームに何人いても困らない。

 ようは、パーティを組みやすくなるということだ。

 この場合、ファイター技能もいざという時に後衛を守ることができるため腐らないし、本業ではないから装甲の薄さも気にならない。

 それでも少し前であれば、効率よりもロマンを重視してファイター技能一択だったろうが、フィーアさんの魔法を見て憧れがでてきたというのもある。

 ある程度までシャーマンを伸ばして、それから本業ファイターに転向するというのもできなくはない。


(さて、どうしたものかな……ロマンを求めるか、実利を求めるか。

 シャーマン技能は回復手段が欲しかった、ってだけで元々メインに据えるつもりはなかったんだけど)


 ちなみに、回復手段が欲しかったならプリースト技能で良かったじゃないかという疑問もあるかもしれない。

 プリーストの方が回復力は上だし、金属鎧の制限もないから装甲の問題もないではないか、と。

 しかし真の最強厨である僕に、プリースト技能を取得する選択肢はなかった。

 何故ならプリースト技能は、その教義に反する行いをすれば能力を失うというリスクを抱えている。

 そういう行動に制約を課せられた力は、僕の趣味ではなかった。

 ……まあ、教義の制約が緩いダークプリーストなら有りか、と思ったのはここだけの話として。


 それはともかく、この選択は今後の僕の冒険の方針を左右する重要なものだが。


(剣と魔法……いずれはどちらにも手を伸ばすから、最終的に技能が死ぬわけじゃない。

 ……ああ。となると、どうなりたいかより、どう立ち回るかの問題か)


 そこまで考えると、悩ましかった結論はあっさりと出た。

 僕は脳内のキャラクターシートに意識を集中し、自身のデータを操作しようと試みる。


(よし。問題なく操作できるな。まずは――)


 方針さえ決まれば、序盤で選択すべき技能はある程度テンプレがあるので、迷うことはなかった。

 数十秒ほどで僕の能力がアップデートされる。


 【ジョブ】

 ファイター:LV1→2(UP) シャーマン:LV1

 スカウト:LV1 セージ:LV1


 【スキル】

 剣戦闘:LV1→2(UP) 武器防御:LV1(NEW)

 回避:LV1 精霊感応/光:LV1 危険感知:LV1 

 調理:LV1(NEW)


 経験点を使用して、ファイターと剣戦闘の技能を上昇させた。やはりこれは近接戦の基本だろう。

 また新たに習得したのが、武器防御のスキル。

 盾のスキルの方が実は補正は高いのだが、今後もし両手持ちの武器を持つことになったらと、腐りにくい武器防御を習得した。


(まあこれでも、ガチビルドの初期作成専業ファイターよりは劣るけど)


 それでもゴブリン相手ならまず一対一で後れを取ることはあるまい。


 ちなみに、いつの間にか生えていたのが調理のスキル。

 これは経験点を使用したわけではないので、おそらく護衛依頼中の雑用経験と元の世界でのバイト経験がスキルに反映されたのだろう。

 経験点を使用しなくとも成長は可能だと証明されたわけだが、感覚的に、あまり過度な成長は期待しない方がいいと感じていた。

 ミレウスはともかく、伏見貴之だった“俺”の自我はお世辞にもあまりセンスが良くない。

 “俺”だったときの感覚は、おそらく自然な技能の成長を促す上では足かせになる。

 素直に経験点を稼ぐ方が遥かに効率的だろう。


(ゲームシステム、いや、効率を考えるなら間違いなくシャーマン伸ばしだったろうけど……僕だからな)


 ファイターを選んだのは適性を考慮したというか、リスクヘッジというか。

 ようは、自分がパーティを組めない可能性を考慮したのだ。


(今までゲームでも仲間なんてできたことないし……)


 別にパーティを組むことを諦めたわけではないが、技能が生えたから仲間ができるといった希望的観測は避けるべきだろう。


(うん。これは冷静な判断だ)


 別にぼっちだったから腰が引けているわけではない。

 そう自分に言い聞かせて、僕は最初の成長を完了した。

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