body on the moon.
「ほら、あそこに...」
そう、彼女は口から言葉を漏らした。
月面旅行。
米国の実業家が発端となるこのサービスは宇宙船をチャーターして観光を行う人気のツアーで、積載量スレスレの人数を乗せる格安のインチキ紛いのものから丸々一機を独り占めできる様な実に豪華なものまで多彩だった。
「まったく、退屈だわ」
妹の誕生日だから本家の老人たちが気を利かせて月面旅行をセッティングした様だったけれど、彼女には退屈なものだった様だ。
「どこに向かうと思ったら、月なんて何もないところ、本当に退屈。まったく本家のじい様たちはムーブメントを理解してないわね」
宇宙船の窓に人差し指を突き立ててコツコツと音をたてる。
「まぁ、そう言わずにさ、あの息の詰まる家に居なくて済むじゃないか」
「それも、そうだけど、」
僕らの親はもう居ない。
いちおう戸籍上は"生きて"居ることになっているけれど。
きっと、向こう側に行ってしまっただろう。
「ほら、お兄様、見えてきたわよ......」
彼女はぶっきらぼうに僕にそう告げると窓の向こうを見やった。
月か......。
彼女は僕よりもずっと自由が効くから、何度か来ている様で退屈なのかもしれないけれど、僕にはとても楽しい思い出に残るのだと。
僕はそう思った。
「じゃあ、私は客室に居るから、お兄様は暇を潰してきたら?」
「う、うむ......」
月面拠点に着くなり彼女はどデカい鞄を持って颯爽と姿を消していった。
どうしたものか、ここにはなんでもある。
この月面には幾つかの月面拠点が点在していて旅行会社によって様々なグレードが紹介される。
その中でもここ"Garden"は月面を利用して造られた理想郷だった。
しかし、どうしたものか。
これほど広大な場所、全て周ろうとしたら何年かかるのか僕には分からない。
「ひとまず、腹が減っては戦はできぬ、だな」
腹の虫がウズウズしている様だったからレストラン街へ向かうことにした。
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