第64話

 俺はただ見ていることしかできない。仲間が必死に戦っているのに、ただ見ていることしかできない。自らの無力さを痛感し、焦燥する。

 膠着状態が次第に崩れていく。ゆっくりと、ゆっくりと、崩れていく。セドリックのほうへと形成が傾いていく。


 何か。何か俺にできることはないだろうか?

 このまま戦闘が終わるまで、ずっと傍観に徹しているのは嫌だ。

 ただ見ているだけなのは嫌だった。

 俺に力があれば。

〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉以外の力があれば――。


 と、そのとき――ポケットの入っている通信結晶が光を放った。存在を忘れていた。そうだった。エイリにスキルの鑑定を、解析を頼んでいたんだ。

 通信結晶を手に取る。


『解析が終わったぞ』


 挨拶などもなく、エイリは本題を告げる。


「どうだった?」


 俺は緊張しながら尋ねた。


『一つ、スキルが確認できた』

「パッシブスキル? それとも、アクティブスキル?」

『アクティブスキルだ』


 アクティブスキル――魔法のように発動させる必要があるスキル。

 今のこの状況で使えるスキルかもしれない。


「詳しく教えてくれ」

『よく聞けよ。スキル名は――〈限られた弱体化:リミテッド・デバフ〉』

「〈限られた弱体化:リミテッド・デバフ〉……」俺は呟いた。「……効果は?」

『指定した対象の能力を一時的に低下させるスキルだ』

「能力を低下って……具体的には?」

『具体的なところは知らん。とりあえず試してみろ、お前の前にいる悪魔に』

「どうして、俺が今、悪魔の前にいるとわかったんだ?」


 気になったので、俺は尋ねた。


『ただの勘だ。今、アイレスで悪魔が暴れまくっているという話は、私の耳にも入っている。通信結晶から聞こえる物騒な音から、お前が今その現場にいるんじゃないか、と考えただけだ』

「なるほど」


 簡単な話だった。


『このスキルはアクティブスキルだからな。詠唱とかは必要ないが、発動させるときは心の内で対象を指定してから、魔法のようにスキル名を発しろ』

「それだけ?」

『ああ。それだけだ』エイリは言った。『後は……そうだな、スキルの射程は多分それほど長くはないだろうから、できるだけ近づいたほうがいい』


 ざっくりとした説明だ。


「具体的には?」

『知らん。一〇メルトルとかかな。もっと遠くからでも発動できるかもしれないが、対象との距離が近ければ近いほど効力が上がるようだ』

「逆に言えば、遠ければ遠いほど効力が落ちる」

『そういうことだ』

「わかった。親切にありがとう」

『まあ、仕事だからな』


 少し照れくさそうにエイリは言った。


『幸運を祈る』


 通話が終了し、通信結晶が砕け散った。

〈限られた弱体化:リミテッド・デバフ〉――新たに得たこのスキルで、勝負を決める。セドリックを、悪魔を打倒する先鋒となるんだ。


 俺は戦場へと参加するために、恐怖を抑え付けて歩き出した。

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