第60話
その後、しばらくして、サイラスさんはカナルス神殿へと帰っていった。
俺たち四人は残った菓子や果物を食べながら、悪魔の封印された壺を割った犯人について話し合った。俺たちが話し合ったところで、犯人特定には至らないだろうが、話のネタとしては十分すぎる。
「犯人なんて探さなくてもよ、あっちのほうから出てきてくれるだろ」
煎餅なる菓子をばりばりむしゃむしゃ、ハイペースで食べながら、アルシャは言った。
「悪魔に憑依されたのだから、街中で派手に暴れるんじゃないか、ということかな?」
ユカノは微笑みながら尋ねた。
「そ。そういうこと」
「もう既に暴れているかもしれませんね」ネルは言った。
「悪魔っていうのは、ことごとくそんな破壊的な奴らなのか?」俺は尋ねた。
「まあ、大抵は人間を殺すのを楽しんだりと、残虐性に満ちた生き物ですね」
「ふうん……」
だが、何事も例外というのがある。
ただ殺戮の限りを尽くす――というのではなく、人間みたいにかなり俗っぽい悪魔がいても全然おかしくはない。
「もしかしたら、案外、レンの元いたパーティーのセドリック、だったか……そいつが犯人なんじゃねえの?」
アルシャはけらけらと笑っていた。酔っぱらっているみたいだ。お茶で酔っぱらえるはずはないんだが……。
「いや、さすがにそれはないだろ」
と、俺は否定した。
「どうしてだよ? そいつの性格的にありえない話じゃねえんだろ? プライドが高いから、レンの〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉がなくなって弱くなって、自分の弱さに耐えられなくなって悪魔の力にすがった。な? ありえそうだろ?」
「まあ、あり得そうではあるけどさ……でもさ、そんなに世界は狭くないだろ。アイレスには悪魔の力が欲しい奴なんてたくさんいるだろうし……」
「レン、世界というのは案外狭いものですよ」
ネルは一五年しか生きていないのに、悟ったような晴れやかな表情でそんなことを言った。
「ですから、もしかしたらもしかすると――」
と、そのとき――。
玄関ドアがガンガンガン、と乱暴にノックされた。そのノック音からは、焦燥のようなものを感じた。まあ、気のせいかもしれないが。
「誰でしょう?」
「サイラスさんかな?」
俺は玄関へと向かった。三人もついてくる。
「サイラスじゃねえだろ」アルシャは言った。「サイラスがあんな乱暴にドア叩くと思うか?」
「思わないね」とユカノ。
「じゃあ、誰なんだろう?」
俺は首を傾げる。心当たりはない。
ガンガンガン、ともう一度ノックの音が響く。
「誰かいるか? いるなら開けてくれ! 俺は怪しいもんじゃない! 傷を負っている。助けてくれ!」
『傷を負っている』の言葉に、俺は慌ててドアを開けた。
怪しい奴が強盗目的で訪ねてきた、などなどの可能性を失念していたが、幸い相手は悪人ではなく、怪我人だった――。
「あれ? あんた確か……ブルーノだったよな」
「いよぉ、レン……」
陽気に挨拶してきたものの、そこで力尽きたのか、ブルーノは気を失った。
とりあえず、俺たちは――主に俺が――ブルーノの血だらけの体を持ち上げ、家の中に入れたのだった。
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