第58話

「それで……レン、一体私に何の用だ?」


 俺は大きく深く息を吸い込むと、こう言った。


「俺にスキルがないか、鑑定してほしい」

「……鑑定、だと?」

「ああ」

「一体どうして?」

「新たなスキルが発現してないかなって思って」


 俺がそう言うと、エイリはため息をついた。

 ぴょん、とロッキングチェアから降りると、本を本棚の下のほうにしまった。それから、俺のことをじいっと見て、


「あのな、スキルというのは基本的に先天的に保有しているものだ。もちろん、後天的に手に入る可能性がゼロというわけではないが……確率はかなり低いぞ。まあ、私は鑑定屋だから見てやるのは別に構わないが、どんな結果に終わろうと金はとるぞ」

「ああ、わかってる。金はきちんと用意してきた」


 俺は金の入った袋を、エイリに渡した。

 袋を開けて中に入った硬貨を確かめると、「よろしい」と老人のように厳かな口調で、あどけない少女エイリは言った。


「では早速」


 そう言うと、エイリは小さな声で詠唱した。

 エイリは見開いた両目で俺の顔を凝視しながら、鑑定用の魔法を発動させる。


「――〈すべてを見通す目:クレアボヤンス〉!」


 両目が黄金に、まばゆく光り輝いた。エイリの目が魚のように宙を泳ぐ。


「ふむふむ……うーん、んんん……ん?」

「何かあったか?」

「んー…」


 エイリは腕を組んで難しい顔をする。

 険しい表情のまま、宙に映し出されているであろう、彼女にしか見えない画面を、しばらくの間睨みつけていた。

 やがて――。


「わからん」


 と、エイリは困った表情で呟いた。


「わからん?」

「何か――スキルか何かがあるのは確認できたが、霧か靄のように不鮮明で、具体的にはわからないんだ」

「そんなことがあるのか?」

「ある。……稀にな」


 エイリは本棚の前をうろうろと歩きまわった。何冊かの本をひょいと本棚から引き抜くと、ロッキングチェアの横のサイドテーブルに置いた。


「詳しく解析するのには、いくらか時間がかかる」


 俺にそう説明すると、エイリは部屋の奥から何かを持ってきて、俺に渡した。それは手のひらサイズの水晶球だった。


「これは?」

「通信結晶だ。わかったらこれで連絡する」

「解析料は?」

「いらん。鑑定料はもらったからな。追加で金を取ったりはしない」

「そうか。よろしくな」

「ん」


 エイリは勢いよくロッキングチェアに座ると、サイドテーブルに置いた本を手に取った。それをペラペラめくりながら、同時にもう一度〈すべてを見通す目:クレアボヤンス〉を発動させる。


「ちなみに、時間ってどれくらいかかる?」

「わからん。最低一〇分、最長一週間といったところか」


 かなりの振れ幅がある。

 まあ、でも、何かがあるのがわかってよかった。それなりに高い金を出して鑑定してもらった意味があった。これでなにもなかったら、金をただどぶに捨てたようなものか――いや、エイリに貢いだとでも考えればいいのか。


「それじゃあ」


 俺が言うと、エイリは俺のことを見ずに、


「毎度あり」


 と、義務的な口調で言った。

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