第四章

第57話

 その日、俺は朝から鑑定屋へと出かけた。

 パーティーの三人――ネル、ユカノ、アルシャは一緒ではない。うまいことごまかして、俺一人で向かった。鑑定屋に行く目的は、もちろん『鑑定』だ。


 鑑定屋のエイリに見てもらった結果、〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉というスキルを保有していることが分かった。

 このスキルは非常に強力だが、パッシブスキル(何もしなくても常に効力を発揮するスキル)なので、戦闘時、俺はやることが何もない。手持ち無沙汰。

 剣を持って、敵に斬りかかることもできなくはないのだが、俺レベルが接近戦を挑んでも、相手に対してダメージを与えられないし、味方(主にネル)の邪魔になるだけだ。


 ユカノは卓越した剣技で敵をバッサバッサと薙ぎ倒していくし、ネルの攻撃魔法にも柔軟に対応することができる。ちなみに俺の場合、ネルの攻撃魔法をうっかり喰らって死にかねない。

 アルシャは前衛と後衛、どちらもこなすことができる。我がパーティーは前衛(ユカノ)と後衛(ネル)が一人ずつで、状況に応じてアルシャは攻撃役の前衛、回復役の後衛の両方をこなす。大雑把で不器用そうなのに、案外器用だったりするのだ。


 できれば、俺は前衛をこなしたい。しかし、剣その他諸々の武器の才能がまるでなく、かといって後衛をやれるほど魔法を使えない。

 だから、もう一つ何かスキルがあれば――戦闘時に役に立つ、アクティブスキル(魔法のように発動させる必要があるスキル)があれば……。


 前に鑑定してもらったときには、スキルは〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉だけだった。けれど、今ならもしかすると、新たなスキルを獲得しているかも――と、淡い希望を抱く。

 前にネルとした会話を思い出す。


『スキルは基本的に先天的に保有しているものです。後天的に手に入れることは滅多にありません』

『一パーセントくらい?』

『そんなに高くありませんよ。おおよそ、れーてんれーれーれー……くらいです』


 思い出して、暗澹たる気持ちになった。

 ネルの言葉の信憑性がどれほどのものかはわからない。しかし、スキルを後天的に手に入れることができる可能性は、かなり――限りなく低いことは確かだ。


「やれやれ……」


 もっとも、可能性がゼロというわけではない。それは俺にとって救いである。希望が少しでもあれば、悲観的にならずに済む。前を向いて歩ける。


 気がつけば、鑑定屋の入った建物の前に着いていた。

 鑑定屋は狭くて年季が入った建物の、二階にあった(ちなみに一階は、魔導書やポーションやマジックアイテムなど、魔法に関する様々なアイテムが売っている雑貨屋だ)。


 雑貨屋の端にある、今にも壊れそうな(底が抜けそうな)木製の階段を上ることで、その鑑定屋に行くことができる。細身の俺に乗っかられただけで、ぎしぎしと悲鳴のような軋みをあげてみせる階段を上って二階に行く。


 壁に一切の隙間なく配置された背の高い本棚。部屋の奥に置いてある大きなロッキングチェアには、一〇歳前後と思われるかわいい女の子が座って本を読んでいる。

 彼女が鑑定屋エイリだ。

 エイリはやってきた客――俺の存在に気づくと、本をぱたりと閉じて顔を上げる。それから言った。


「ああ、お前か。確かネルの友達のレンだったな」

「覚えててくれたのか」

「私は記憶力がいいんだ」


 そう言うと、エイリは大きく伸びをした。


「それで……レン、一体私に何の用だ?」


 俺は大きく深く息を吸い込むと、こう言った。


「俺にスキルがないか、鑑定してほしい」

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