第32話

「ところで」


 と、ユカノは話題を変える。


「君たちは二人でパーティーを組んでいるの? それとも、他に何人か仲間がいるのかな?」

「私とレンの二人だけです」

「そう……」ユカノは言った。「これからも二人だけでやっていくつもり?」

「いえ、できれば後二、三人仲間が欲しいなー、なんて思っています」

「ふむ」


 ユカノは何か決心したように、一度大きく頷いた。


「じゃあ、たとえば……私が君たちのパーティー……えーっと――」

「〈七色の夜明け〉」と俺。

「〈七色の夜明け〉に加入したいと言ったら、どうする? 入れてくれるかい?」

「「……え?」」


 俺とネルは顔を見合わせる。それは相談というより、驚嘆に近い意味合いだった。

 まさか、出会って数時間の――それもクエストの依頼人に、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。


「……駄目、かな?」

「あ、いえ、駄目というわけではないです」

「ああ」俺も同意する。「ただ、その、突然だったから驚いたというか……」

「そうか。驚かせてしまってすまないね」


 そういえば、ユカノは『たとえば』という仮定の言葉をつけていたな。ということは、あくまでも仮定であって、実際に俺たちのパーティーに入りたいわけではないのでは?

 俺の思考が空気に漂って伝わったのか、ユカノはもう一度、今度はもっとはっきりと言う。


「私は本気で〈七色の夜明け〉に加入したいと思っているんだけど……どうだろう?」

「……どうしますか?」

「えっ?」


 と、素っ頓狂な声を出してしまった。


「一応、〈七色の夜明け〉のリーダーはレンでしょう?」

「えっ、俺なの?」

「えっ、違うんですか?」とネル。「では、私なんですか?」


 パーティーにはリーダーが必要だ。とはいえ、『絶対に』というわけではない。リーダーとはあくまでも代表者であって、それ以上でもそれ以下でもない――と俺は思っている。

 しかし、これはあくまでも〈七色の夜明け〉の話。


 他のパーティーでは、話は異なってくる。たとえば、かつて俺が所属していた(?)〈聖刻の剣〉では、セドリックという男が、ただの代表者以上の――絶対的な権力を有していた。

 リーダーの役割はパーティーによって異なる、というわけだ。


「パーティーリーダーを誰にするかも決めてないの?」


 大丈夫かこいつら、とでも言いたげな顔をするユカノ。

 俺とネルはすいっと目を逸らした。


「まあ、そんなことより――」


 ユカノは話を戻す。


「私の加入の是非について答えてくれないか?」


 ユカノの実力を判断するには、まだ十分と言えるほどの実戦を見せてもらっていない。先ほどのゴブリンの集団を瞬殺した戦い、その一回だけだ。だけど、あの一回だけでも、彼女がどれ程優れた剣士かは、愚鈍な俺でも理解できた。


 ユカノはネルと同じく、致命的な弱点が足を引っ張っているだけで、それさえ取り除くことができれば、超がつくほど優秀な冒険者になれる。その素質を有している。


 そして、俺のスキル〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉は、きわめて優秀だが致命的な短所によって活躍できずにいる人にこそ、その効力を十全に発揮する。

 だから――ユカノの加入は、お互いにとってメリットだらけなのだ。


「ユカノ、これからよろしく頼む」


 俺が手を差し出すと、ユカノはぎゅっと握った。


「よろしく、レン」

「よろしくです」


 割って入るかのように、ネルの両手が上下から包み込んだ。

 三人で同時に握手しようとすると、こんなよくわからない形にならざるをえないのか? 俺にはいい感じの方法が思いつかなかった。


 まあ、とにかく。

 〈七色の夜明け〉に新たなるメンバー――ユカノが加わった!

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