第31話

「いつもの私なら、既に体力切れになっているはずだ。だが今日の私は、まだ十分に体力が残っている。これは一体――」


 俺とネルを交互に見た。


「どういうことなんだろう?」


 ハイネラ山がある種のスポットで、この山を登っている間は体力切れを起こさない――なんて特殊効果があったりすることはもちろんない。


 ユカノが俺たちに尋ねたのは、この特殊効果――バフの原因が俺たちにある、あるいは俺たちならこの疑問に答えてくれると思ったから、だと思う。


「もしかしたら……」


 顎に指をあてたネルが、俺のことをちらりと見る。


 俺のスキル――〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉が、ユカノに作用したのか?


 〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉は仲間にバフを与え続ける、という支援効果があるパッシブスキル(自動発動型スキル)だ。

 〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉の正確な効果はわかっていない。ただ、様々な種類のバフがかかるということはわかっている。


 ネルの場合、他の様々な面も強化されているのだろうが、特に目立ったのは『致命的な弱点』である『絶望的な魔法の命中率』の飛躍的向上だ。


 ネルとの実証実験の結果、〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉は『長所をより伸ばす』効果より、『短所を補う』効果のほうが強いのではないか、という結論にたどり着いた。


 これはあくまで推測に過ぎないのだが、もしそうだとしたら、ユカノにとって致命的な弱点である『絶望的な体力の低さ』が、〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉によって補われたのではないだろうか?


「なあ、ユカノ。スキルって知ってるか?」


 俺は尋ねた。すると――。


「はははっ、馬鹿にしないでくれ。もちろん、知ってるさ」


 どうやら、俺の質問をジョークだと思ったらしい。馬鹿にしないでくれって……。


「……」


 スキルのことをはっきりと知らなかった俺が、馬鹿みたいじゃないか……。いや、事実馬鹿で非常識なのか……。

 ネルが俺を見て、静かにくすくすと笑っている。


「俺のスキルは〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉――支援系のパッシブスキルだ」

「なるほど。パッシブスキル――自動的に発動するスキル、か……」ユカノは言った。「それでその〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉の具体的な効果は?」

「仲間にバフを与え続けるって効果」

「ふむ?」ユカノは首を傾げた。「バフというのは、具体的にはどのような?」

「うーん、具体的に『こういう種類のバフだ』と答えるのは難しいなあ……」


 さて、どう説明しようか……。


「あー……大雑把な言い方だけど、たくさんのバフをかけることができるわけだ」

「『たくさんのバフ』って……」


 ユカノは俺の表現に苦笑した。具体性の欠片もない。


「私の場合は――」


 と、ネルが効能について語ってくれる。


「魔法の威力が上がって、体力が向上して、魔法の魔力消費量が減って――そして、一番効果があったのは魔法の命中率です」

「魔法の命中率?」

「お恥ずかしい話ですが、私は魔法がまったく当たらなくって、すごーく困っていたのです。ですが、レンの〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉のおかげで、壊滅的だった私の魔法命中率が飛躍的に向上しました」


 だから、とネルがまとめに入る。


「ユカノの体力がいつもより上がっているのは、おそらくは〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉のおかげなのです」

「そうか、そうなのか……」


 話を聞いて、ユカノは何かを思案する。打算的な――何かを。

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