間章
第24話:sideセドリック
最近、調子が悪い。
『どこが?』と問われれば、『わからない』と答えるしかない。全体的に体のコンディションが悪いのだ。しかし、それはセドリックだけではない。どうやら、パーティーメンバーのシェリーとアデルも同じらしい。
この場合の『体のコンディションが悪い』というのは、病気などではなく、スランプに似たものだ。
(一体、何が原因なんだ……?)
考えてもわからないので、二人に意見を求めてみた。
「うーん、体のコンディションが悪いというよりかー、〈聖刻の剣〉に加入する前に戻ったような感じがするのよねー」
シェリーは唇に指を当てて、わざとらしく首を傾げた。
「ええ」
アデルはその意見に同意する。
「逆に〈聖刻の剣〉に入ってからが、コンディションがよすぎたんです。常に補助魔法が――バフがかかってるみたいに」
「そうか」
セドリックは頷いた。そして考える。
「何が原因なんだ?」
今度は口に出す。
思い当たることはない。しかし、二人の言葉に、セドリックは引っ掛かりを感じた。
「コンディションが悪くなったのはいつ頃だ?」
「そうですね……ああ、雑用係のレンを追い出したあたりでしょうか」
「シェリーは?」
「私も同じ頃かなー」
セドリックも同じ頃だ。
レンがいなくなってから、コンディションが悪くなった。
結局、レンの代わりの雑用係は入ってきていない。シェリーやアデルほど美しく、傍に置いておきたい人材はいなかった。何度か遊べば満足して飽きてしまう。
だから、〈聖刻の剣〉のメンバーは、一人減って三人。いや、レンは正確には〈聖刻の剣〉のメンバーではない。ただの雑用にすぎない。
「レンが何か関係あるのか――いや、あいつがいなくなったくらいで、俺たちのコンディションが落ちるわけがない。そんなことはあり得ない。馬鹿馬鹿しい」
レンは〈聖刻の剣〉の中核を担っていたわけではない。だから、レンの存在の有無と彼らのコンディションの善し悪しに相関関係はないはずだ。
考えても仕方がない。
今までの人生は常に順調だったが、いつまでもそうとは限らない。たまにはスランプや行き詰まりがあるものだ。それを乗り越えることで、自分は冒険者として一皮むけて、大きくなれるのだ。
そう、これはただのスランプなのだ――。
セドリックは自らにそう言い聞かせた。
◇
冒険者ギルドに向かった。
三人は目についたクエストを受注することにした。受注したクエストは、近場の墓地に出没するアンデッド系モンスターの討伐だった。
それなりに上位のモンスターも出没するらしいが、いつもの三人ならさほど苦労せずに倒せるはずだ。今の自分たちはコンディションが悪いが、倒せないことはないだろう。
準備を整えて、墓地へと向かった。
夜、満月に照らされた墓地には、数多のモンスターがさまよっている。
三人が墓地の敷地内に侵入すると、モンスターたちは一斉に襲い掛かってきた。三人は魔法と魔装で応戦した、が――。
「ぐっ……」
魔法の威力が明らかに落ちている。
身体能力も目に見えて落ちている。
ありとあらゆる能力が落ちている。
それでも、シェリーとアデルはモンスターを倒していく。〈聖刻の剣〉に加入する前までコンディションが――いや、能力が落ちても、二人はそれなりには強いのだ。
問題は――セドリックだった。
レンを〈聖刻の剣〉から追い出してから、セドリックはまともにクエストをこなしていなかった。戦闘はおろか、訓練すらしていない。だから、自らのコンディションがどれくらい悪いのか――正確には、能力がどれくらい落ちているのか――まったくわからなかったのだ。彼は日々、主に女遊びに励んでいた。
「クソッ!」
(これじゃまるで無能と蔑んだレンのようじゃないかっ!)
セドリックは必死に戦った。死に物狂いで戦った。ここまで真剣に戦うのは、生まれて初めてだった。しかし、結果は伴わなかった。だから、途中で戦意を喪失してしまった。
シェリーとアデルが、セドリックの分までモンスターを倒した。
クエスト自体は成功した。
しかし――セドリックは生まれて初めて挫折というものを味わった。味わってしまった。屈辱的だった。挫折を挫折と認めたくはなかった。
様々なネガティブな感情が混ざり合って不機嫌になっているセドリックを、シェリーとアデルは慰めたりはしなかった。二人はただ冷たい目で、セドリックの様子を品定めでもするかのように見つめていた――。
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