第二章
第25話
〈七色の夜明け〉設立から一か月が経った。
パーティーメンバーはいまだ俺とネルの二人だけだ。設立したばかりで、何の実績もない俺たちのパーティーに加入したい奴などいない――わけでもなかったのだが……。
能力面に関しては、そこまで気にしない。
なぜなら、俺自身、〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉でネルを自動的にサポートする以外、ろくに役に立っていないのだから。
だから、気にするのは――大切なのは、人格だ。
残念なことに、〈七色の夜明け〉加入希望者はいずれも人格に難があった。彼らは全員ネル目当てだった。面接時、彼らは下心を隠そうともしなかった。いや、もしかしたら本人は隠しきれているつもりだったのかもしれないが、俺たちには丸わかりだった。俺は少し引いたし、ネルはものすごく引いていた。
ネルに汚物を見るような目で見られ、彼らはむしろ興奮していた。俺には理解できない特殊な性癖の持ち主なのだろう。
世の中にはいろんな人がいるんだな、と俺は改めて思った。
「どうして、まともな人が来ないのですかっ!?」
ネルは怒鳴った。そこには、嘆きも込められていた。
「運が悪かったんだろ、きっと」
「もう男性とは面接しませんっ! 女性オンリーにします!」
ネルはそう宣言した。
「そうすれば、私目当ての人は来なくなるでしょう。なんという英断。すばらしい。やはり、私は天才ですね」
女性オンリー、か……。
俺としては、男女同じ人数が理想的だ。どちらかに偏ると、諸々の問題が生じる。
パーティーメンバーが俺以外女だったら、男なら誰しも夢に見る(?)ハーレムのように思えるが、実際は主導権を握られ、奴隷のようにこき使われるのが落ちだ。
――とまで言うのは、言い過ぎかもしれないが、居心地が悪くなるのは、まあ、間違いないだろう。
「そうだろうか?」
俺は疑問を呈する。
「ネル目当ての女もいるかもしれないぞ?」
「え?」
ネルはかわいらしく首を傾げた。よくわからない、といった顔。
「世の中には男が好きな男や、女が好きな女もいるからな」
「そうなんですか?」
「うむ」
「そうなんですかー」ネルは言った。「でも、あの人たちほど欲望丸出しってことはないでしょう?」
「さあ? それは知らん」
そんな会話をしていると、冒険者ギルドに着いていた。
俺たちはこの一か月の間に、F級冒険者からE級冒険者へとワンランクアップしていた。これは目覚ましい活躍――というほどではない。
下のランクほど簡単にランクアップできる。とてつもない実力を持つ冒険者ならば、最初の一か月でD級やC級まで駆け上がる。
とはいえ、実質一か月でE級というのは、上出来ではなかろうか。
そう考える俺とは対照的に、ネルは不満げだった。
「あー、早くS級冒険者になりたいなー」
ネルは呟くように見せかけて、俺に向かってそんなことを言った。ちらっちらっ、と俺のことを見ながら――。
「そう急ぐでない」
俺はなだめるように言った。
「どうして、私に本気を出させてくれないのですか? 本気を出せば、この一か月でD級――いや、C級になれたかもしれないというのに」
「目立ちすぎるのは、よくないと思うんだ」
「レンは目立つのが嫌なんですか? 自己顕示欲がないんですか?」
「いや、そんなことはない」
俺もごく普通の人間なのだから、認められたい、ちやほやされたい、といった欲求はある。まあ、ネルほどじゃないけど。
「目立つのは悪いことじゃない。問題なのは目立ちすぎること、だ」
何事もほどほどが大切。
「? わからないですね。どういうことですか?」
「出る杭は打たれるって言うだろ? 目立ちすぎると、厄介事を招きかねん――と俺は危惧してるんだ」
「やれやれ。レンは心配性ですね」
ネルはゆるゆると首を振った。
「ですが……なるほどわかりました。この私の圧倒的な才能に嫉妬した人たちが、醜い陰湿な嫌がらせをしてくる可能性は十分にありますね。私たちには時間がたっぷりとあるのですから、じっくりと成長していくとしましょうか」
「おう」
随分、ナルシシズムな――あるいは自信満々な――発言だな。一か月前まで、魔法がまったくと言っていいほど当たらなかったというのに。だが、自分に自信を持つのは、すごくいいことだと思う。調子に乗りすぎなければ、だが。
「さて、今日も張り切っていきましょう」
にっこりと笑ってそう言うネルに、
「ああ」
俺もにっこりと笑って頷いた。
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