第22話
アイレスへと帰還した俺たちは、冒険者ギルドへと赴いて、キャスにゴブリン討伐の報告を済ませた。
「はいっ。報酬にゃ」
キャスから硬貨の入った皮袋をもらうと、俺たちは夕食を食べに出かけた。
俺もネルも所持金がほとんどゼロに近かったので、ゴブリン討伐で手に入れた金を夕食代に充てた。夕食はボロい外観の安い食堂で食べた。
夕食を食べ終え、満腹になった俺たちは、夜の繁華街をお喋りしながらのんびりと歩く。話題はもちろん、今夜泊まる宿についてだ。
「ネルはいつも宿屋に泊まってるのか?」
「ええ。持ち家はありませんから」ネルは言った。「レンは?」
「俺はパーティーハウスの隣にある小さな納屋に寝泊まりしてた。だけど、パーティーから追い出されちゃったから、宿屋を探さないとな」
「レン。全所持金を出してください」
「ん」
俺は適当な建物の壁にもたれると、ズボンのポケットや服の内ポケットなどから金を取りだした。これですべてだと思う。
俺の所持金とネルの所持金とゴブリン討伐の報酬を合わせた金額。それが〈七色の夜明け〉の全財産だった。
「……少ない、ですね……」
「……だな」
「これでは、やっすい宿屋の一室を借りるのが精一杯ですね……」
「個室じゃなくて、雑魚寝するような宿屋にするか?」
「個室じゃなきゃ嫌ですっ!」
ネルは強く主張した。
見知らぬ人とともに寝るのが嫌なのだろう。それは性格的な面もあるだろうけれど、ネルが女だということも関係あるはずだ。雑魚寝するような宿屋は、男女同部屋の場合も多い。問題が起こる可能性は低いだろうが、気分的に嫌なのだろう。
「うーん……」
困った。
雑魚寝は駄目。野宿は論外。しかし、二つの部屋を借りるような金はない。俺とネルが同じ部屋に泊まるのも論外だろうし……。
ネルは大きくため息をつくと、
「仕方ありません。妥協しましょう」
と言った。
「というと?」
「二人で同じ部屋に泊まりましょう」
「……え?」
……マジですか?
ネルの顔をまじまじと見た。冗談、じゃなさそうだな……。
「私と一緒じゃ、嫌ですか?」
「嫌というわけではないが……」
言葉尻を濁す俺に、ネルは微笑んで、
「私も嫌というわけではありません」
「だがな、俺も一応男なんだぞ?」
「男だから――なんですか? 部屋で二人っきりになった瞬間、オオカミにでもなると言うのですか?」
ネルは俺を責め立てるかのように言った。
「いや、ならないけど」
俺は慌てて首を振った。
俺にだって分別ってものはある。……あるはずだ。
「なら、大丈夫です」
全財産の入った皮袋をバッグにしまうと、ネルは歩き出した。
後を追って歩き出した俺を、ネルは振り返ってじっと見つめた。
「な、なんだよ?」
「もしもレンが欲望を抑えきれず、私に襲い掛かってきたら――」
ネルは指をパチン、と鳴らしてウインクをすると、
「――魔法で撃退するので、ご安心ください」
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