第21話
ゴブリンはスライム同様弱小モンスターだ。しかし、だからといって油断していると、手に持った木の棍棒で撲殺されかねない。
さあ戦うぞ、という段になって俺は気づいた。
……俺、武器持ってないじゃん。
魔法なんてろくに使えない。素手で戦うか? ……いや、どう考えても無理だ。武術の心得なんて俺にはない。
俺のスキル〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉の効果は、俺にも適用されるのだろうか? いや、もしされていたら、俺は冒険者として活躍出来ていたはずだ。あるいは、適用されてこのザマなのか……。
〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉の正確な効果はわかっていない。様々なバフがかかる、ということくらいしかわかっていない。
ただこのスキル、バフの効果には偏りがあるのではないか、と俺は思っている。
ネルの場合、『魔法の命中率が絶望的である』という致命的な『弱点』があった。俺の〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉によって、この弱点は改善されたが、他の面はここまで劇的な変化はなかった(もちろん、他の面もそれなりには強化されているのだが)。
だから、〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉はどちらかと言えば、『長所をより伸ばす』効果より、『短所を補う』効果のほうが強いのではないか、と俺は推測している。
だとすれば、ネルのように、きわめて優秀だが致命的な短所によって活躍できずにいる人を仲間にするのがよさそうだ。
そんなことを考えていると、前方からやってきたゴブリンの集団と目が合った。
「おっ」
「グギャギャギャッ!」「ググギャッ?」「ギャッギャッギャウッ!」「グッガッゴギャッ?」「ゴッゴギャッギャッ!」
ゴブリン五人組は甲高い声で話し合っている。
残念ながら、俺はゴブリン語をマスターしていないので、彼らが何を話しているのかはわからない。しかし、それは彼らも同じで、俺たちが何を話しているのかはわからないはずだ。わからないよな?
「五体も来ましたね、ゴブリン」
「火系統の魔法は使わないでくれよ?」
「もちろん、わかっていますよ」
俺たちは今、森の中にいる。
こんなところで火系統の魔法を使ってしまったら、間違いなく大惨事になる。スライムを相手にした草原よりも、燃える素材が多いのだから。
森林火災を起こしてしまって、しかもその犯人が俺たちだとバレたら非常にまずい。だから、気を付けてくれよ。
「本来なら、俺も戦うべきなんだろうけれど……」
俺は『武器持ってないんだ』アピールをした。情けない……。
「大丈夫です」
ネルは俺を安心させるように微笑んで見せた。
「ゴブリン程度、今の私なら一瞬で蒸発させられますよ」
蒸発って恐ろしい言い方だな……。
ゴブリンたちは、俺とネルが何を話しているのか、正確にはわからないはずだ。しかし、どんな感じの会話をしているのかは、雰囲気でなんとなくわかっているのだと思う。意外と馬鹿ではないようだ。
自分たちが侮られている、と悟ったゴブリンたちは憤慨した。人間たちに目に物見せてやる、と言わんばかりに、棍棒を振り回しながら突撃してくる。
小さな小さな子供くらいの身長のゴブリンが駆けてくる様は、微笑ましい――なんてことはないな。全身が薄汚れていて、意地悪そうな顔が醜く歪んでいるので、どちらかと言うと気色悪い。というか、普通に気色悪い。
「私の魔法に刮目するのです」
「おう」
「私の魔法に驚嘆するのです」
「おう」
「私の魔法に戦慄するのです」
「おう」
「私の魔法に――」
「早く撃ってくれ」
「……〈細断する風:シュレッド・ウィンド〉」
ヒュンヒュンヒュン。
無数の風が刃となって、ゴブリンを細切れにした。
無数の小さな立方体となったゴブリンたち。その姿は見るも無残でグロテスクだった。サイコロ状になった生肉が地面に散らばる。
「……おえっ」
彼らを調理した張本人は、大きな木の根元に嘔吐した。
こうなることはわかりきっていただろうに、どうしてネルは〈細断する風(シュレッド・ウィンド)〉という魔法を選択したのか。
ともあれ。
〈七色の夜明け〉初クエストは、いとも呆気なく終わったのだった。
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