第20話

「〈七色の夜明け〉なんて名前はどうだろう?」


 却下されるだろうか、などと思いながら、俺は恐る恐る尋ねた。


「〈七色の夜明け〉……?」

「そう」


 やはり、却下か?

 ネルの表情からは、採用なのか却下なのかわからない。


「いいですね、〈七色の夜明け〉」


 ネルは自らに馴染ませるかのように、何度も「〈七色の夜明け〉〈七色の夜明け〉〈七色の夜明け〉」と呟いた。


「名前の由来とかあったりするんですか?」

「『夜明け』っていうのは、俺とネルが無能扱いされていた時代が終わり、新たな時代が始まったことを意味している。で、『七色』っていうのは、俺たちの未来には様々な可能性があるという比喩だ」

「すばらしい!」


 ネルは感動と興奮を露わに言った。


「滅茶苦茶深いですね! まるで深海の底のように!」

「あ、ありがとう」


 思いのほか褒められたので、俺は照れてしまった。深海の底のように?


「キャス!」

「にゃ?」

「私たちのパーティー名は〈七色の夜明け〉でお願いします」

「わかったにゃ」


 パーティー登録を終えると、俺たちは早速クエストを受注することにした。

 クエストはクエスト掲示板に大量に貼り出されている。巨大な掲示板の前には、冒険者たちが餌に群がるアリのように集まっている。


 俺たちもクエスト掲示板を見てみる。

 クエストの種類は様々だ。『収集系』のクエストや『討伐系』のクエストや『配達系』のクエストなどなど……。


 クエストには条件があったりする。

 例えば冒険者ランクによる制限。E級以上でなければ受けることができない、とか。その逆――F級以外は受けることができない、なんてクエストもなくはないが、そういったものはごく少数だ。


 さて、俺たちはともにF級冒険者であり、なのでもちろんパーティーランクもFである。最下級の俺たちが受けることのできるクエストは、当然報酬もしょぼい。


「なあ、ネル」

「なんです?」

「ネルって貯金結構あったりするのか?」

「もうほとんどないですよ。だから、ガンガン稼がなければならないんです」

「そうか」


 ネルは金に余裕がないのに、コーヒーを奢ってくれたり、鑑定代を出してくれたのか。そう考えると、嬉しさと申し訳なさが同時にこみあげてくる。


「討伐系のクエストが一番稼げますね」


 ネルはクエストを吟味しながら言った。


「そうだな。でも、戦わないといけないから、その分リスクも高いな」

「冒険者が戦いを恐れてどうするんですか」


 その通りだ。

 冒険者として生きていく以上、戦闘は避けては通れない。戦うことを恐れていては、話にならない。


「……よしっ。モンスターを討伐するか」

「F級の私たちが受けられるのは……あっ、この『ゴブリン討伐』なんてどうですか? 生息地もアイレスから近いですし」

「いいね」

「では、このクエストにしましょう」


 ネルはクエスト依頼用紙をもぎ取ると、キャスのもとへと持っていった。

 パーティー〈七色の夜明け〉記念すべき初クエストは、ゴブリン討伐に決定した。さあ、張り切ってゴブリンを狩りまくるぞ!

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