第19話

「私たちのパーティー名は――」


 そこで言葉を切ると、ネルは焦らすように溜めた。まるでこれから大発表をするかのように。ネルにとっては大発表なのかもしれないが、俺とキャスにとっては些細なことなのだ。


「――〈紫電の魔女〉」

「……え?」

「〈紫電の魔女〉、なんていかがでしょうか?」


 どうだ、私いいセンスしてるだろ、とでも言いたげな顔でネルは言った。むかつくほどにクールな表情をしている。

 それに対して俺は――。


「却下」

「なぜだっ!?」


 自らのセンスを否定されたネルは、俺に掴みかかった。驚愕の表情をしていることから、称賛されるものだと思っていたのだろう。


「自分でこんなことを言うのも何ですが、すばらしいネーミングセンスではありませんかっ!?」


 ネルの剣幕に、俺は気圧されながらも、


「まず第一に、名前がかっこよすぎる」

「ださいより、かっこいいほうがいいではありませんか」

「なるほど。確かにその通りかもしれない」

「でしょう?」


 だがな、と俺は続ける。


「Fランクパーティーにつける名前としては、かっこよすぎると思うんだ」

「やれやれ。レン、あなたには向上心というものがないのですか?」


 ネルはため息混じりに肩を竦めると、


「確かに、今の私たちはしがないF級冒険者で、無名のFランクパーティーでしかありません。しかし、いずれはS級冒険者に――Sランクパーティーへと成り上がるのです。そのときに、ふさわしいと思えるような名前をつけておくべきなのです」

「自信満々だにゃあ」


 キャスは感心したように、あるいは呆れたように言った。


「一理あるかも」


 俺たちのパーティーがSランクに至れるとまでは思わない。

 だがしかし、いずれそれなりのランクのパーティーになってやる、という野望は持っている。だから、それ相応の名前をつけるべきだ。


「でしょう?」


 だがな、と俺は続けようとした。


「またですか……」

「だがな、〈紫電の魔女〉って名前はなんだ? お前個人のことを指してるだけじゃないか」

「ほほう。わかりましたか」


 そりゃあ、わかるよ。

 髪が紫だから〈紫電〉。

 魔女みたいな恰好をしているから〈魔女〉。

 合わせて〈紫電の魔女〉。


「二つ名かよ」

「ええ」ネルは頷いた。「いつか〈紫電の魔女〉と、そう呼ばれたいものです」

「ネル個人がそう名乗るのは勝手だが、俺まで『〈紫電の魔女〉所属のレンだ』なんて名乗らなきゃならなくなるじゃないか」

「嫌ですか?」

「嫌ってほどじゃないけど……」


 けど、しっくりこない。

 納得がいっていない俺を見て、ネルは諦めたかのように淡く微笑むと、


「仕方がないですね」


 と言った。


「特別に、パーティーの命名権をレンに授けましょう」


 感謝してくださいね、とネルは小悪魔のようにいたずらっぽく笑った。


「俺が決めちゃっていいのか?」

「ええ」ネルは頷いた。「――といっても、気に入らなかったら一切の遠慮なく却下しますけれどね」

「わかった」


 俺は受付カウンターにもたれながら、雑然とした冒険者ギルドを見るともなく見て、パーティー名を考えた。

 ネルはキャスとお喋りしている。


 やがて――ある名前が不意に思いついた。

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