第18話

「で、ネルとレンはにゃにしに来たのかにゃ?」

「ずばり、パーティー登録しに来たんです」

「パーティー登録?」


 キャスは不思議そうに首を傾げた。


「ネルって確か……パーティーに入ってたよね? パーティー名は〈漆黒のカラス〉だったっけにゃ?」


 漆黒のカラスって……。

 ただのカラスじゃん!


「違います。〈漆黒の双翼〉です」

「にゃはは。間違えちゃったにゃ。うっかりにゃん♪」


 てへっ、とキャスは舌をぺろりと出しながら、猫っぽいポージングをした。

 白々しいというか、なんというか……。


「実はですね……」


 ネルは内緒話をするかのように声を潜めて、


「パーティーから追い出されちゃったんです」

「ネルが?」

「私と……」


 ネルは自分を指差し、それから俺を指差す。


「レンが」

「にゃるほど~」キャスは頷いた。「レンもカラスに所属していたの?」


『漆黒の』という部分すらなくなってしまった。もはや別物だ。覚える気がない――というより、わざとだろう。


「レンは私とは違うパーティーです」

「にゃんて名前?」

「〈聖刻の剣〉」


 俺は答えた。


「あー……」


 パーティーの名前に、キャスは微妙な顔で笑う。


「〈聖刻の剣〉って、セドリックのクソ野郎の――おっと失礼、セドリック氏がリーダーを務めるパーティーだったよにゃ?」

「セドリックのこと、知ってるのか?」

「前に口説かれたにゃ」


 自信家でプレイボーイなセドリックは、好みの女性を見かけるとすぐにアプローチをかける。奴は優男でモテるが、しかしそれでも拒否されることだってある。


 女性にすげなく断られると、セドリックは不機嫌になる。理不尽な怒りを、周りにぶつけるのだ。俺も幾度となく、理不尽な怒りをぶつけられたものだ。


「『俺は超有望株だ』とか『俺はいずれS級冒険者になる男だ』とか、ナルシシズム全開でうっとうしいことこの上なかったにゃ」

「すまん」


 元パーティーメンバーとして、俺は謝っておいた。


「レンも、あの男には苦労させられたんじゃにゃいか?」

「ああ、まあな……」


 俺は苦々しい顔で頷いた。


「四六時中、あの男と一緒だったなんて……同情するわぁ」


 語尾の『にゃ』をつけ忘れるくらいには、俺に同情してくれているようだ。


「それで、パーティーは二人で組むのかにゃ?」

「とりあえずは」


 ネルが答えた。

 パーティーは二人から組むことができる(一人だったら、それはパーティーではなくソロだ)。ただし、二人のパーティーはそうはいない。メジャーなのは四人から六人。一〇人以上の大所帯もあるのだが、大体パーティー内で二つ三つにわかれているので、実質、複数のパーティーが同じ名を名乗っているようなものだ。


「とりあえずは?」


 俺はネルに言った。


「いつかはもう何人か入れて、立派なパーティーを作るんです」

「当ては?」

「ありませんよ、当然」


 当てがないのに、なぜか威張るような口調でネルは言った。

 声のトーンから一瞬、『ありますよ、当然』と言っているのではないか――つまり、俺が聞き間違えたのではないか、と思ったが、そんなことはなかった。


「パーティー名は考えてあるのかにゃ?」

「もちろんです」


 ネルは大きく頷いた。


「私たちのパーティー名は――」

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