第15話

 結論から言おう。

 ネルの魔法の命中率は確かに上がっていた。それも飛躍的に。


 命中率一〇〇パーセント――とまではいかないものの、それに近い数値を叩き出した。今までの命中率(一パーセント以下)から考えると、これはとてつもないバフ性能なのではなかろうか。


「無敵! 無敵だっ! これで私の覇権は約束されたも同然っ……!」


 ぬははははっ、と悪役のように高笑いしているネルに、俺は尋ねる。


「なあ、ネル」

「なんだね?」


 ネルがハスキーな声で言った。

 キャラ変わってるじゃねえか。


 知り合ってまだ数時間の間柄だが、早くもネルがどういった性格なのか、だいぶわかってきた。思春期にありがちな感じというか……。まあ、俺も思春期という括りにカテゴライズされるのだとは思うけれど。


「命中率が上がった以外に、変化は――実感はあるか?」

「んんー……そうですねー……」


 腕を組んで考えていますよアピールをするネル。


「まず、魔法の威力が上がっているような気がします。次に、体が軽い――つまりは体力が向上しているような気がします。そして最後に、魔法の魔力消費量が減っているような気がします」


 すべて『気がします』か……。

 まあ、でも、『気がする』というのは言い方の問題で、本人はそれらの効果を実感しているのだろう。


 ネルはキョンシーというモンスターのように、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。


「他にも、言葉にするのは難しいですが、いろいろと向上しているような気がします」

「ふむふむ」


 なるほどなるほど……。

 派手ではないものの、〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉はなかなか実用的なスキルなのかもしれない。縁の下の力持ち的な。


「さ、検証も終わったことですし、早くアイレスに戻りましょう」

「そう急ぐでない」

「急ぐよ」

「何か用でもあるのか?」

「ありますとも」


 ネルは鼻息荒く頷いた。


「冒険者ギルドに行って、パーティー登録をするのです」

「ああ……。そういえばそうだったな。パーティー組むんだったな」

「レンが言い出したんじゃないですか。『俺とパーティーを組まないか?』って。まるでプロポーズするみたいに」


 プロポーズするみたいに、では断じてない。

 だが、そうだったな。パーティーを組もうと提案したのは俺だ。そしてその提案を、ネルは二つ返事で引き受けてくれた。


「ま、レンが言い出さなかったら、私から提案したんですけどね」


 ネルが何かをぼそっと呟いた。


「ん? 何か言った?」

「いえ、何でも……」


 ネルはごまかすように笑って首を振った。


「さっさとパーティー登録して、さっさとクエストを受けましょう。そして、ガンガン金を稼いで、お金持ちになるのです」

「お金持ちになって、その後は?」

「共に豪遊しましょう」

「いいね」


 俺たちは周りの目を気にせずに(草原には都市を行き来する馬車や人がいた)、二人仲良くスキップをしながらアイレスへと帰還した。

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