第14話

「――〈燃え盛る炎:バーニング・ブレイズ〉!」


 前方――二〇メルトルほど先にいるスライムのカップル(?)に向けて魔法を放った。


 ネルの話だと、魔法の命中率は一パーセント以下。

 それは、ひどくざっくりとした表現だ。0.9パーセントかもしれないし、0.01パーセントかもしれないし、あるいはそれ以下だったりするのかもしれない……。


 俺は戦々恐々としながら、事の成り行きを見守った。

 スライム二体の足元に魔法陣が展開され、そこから巨大な炎が湧き上がって踊り狂う。炎に包みこまれたスライムたちも踊り狂う。


「「おおっ!」」


 俺とネルが同時に、感嘆の声をあげる。


 いや、どうしてお前も感嘆してるんだよ。

 そう思ったが、それはきっと、自らの魔法がターゲットに的中したことに対しての感嘆なのだろう。ちなみに、俺のは魔法とその威力に対してだ。


「当たった! 当たりましたよ!」


 ネルは興奮を隠そうともせずに、叫びながらぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「おめでとう」

「ありがとう!」


 ネルが俺の手を握って、ぶんぶんと振った。

 握手をしてるつもりか?


「やったな」

「やりました!」

「ところで、喜びに水を差すようで申し訳ないんだが……」

「なんです?」

「燃えてるぞ」

「? 何がです? 私の心が、ですか?」


 何言ってんだ、こいつ。

 魔法がスライムに当たった喜びでいっぱいで、周りが見えていないのか?


「違う。草原が、だ」

「……あ」


 ぼうぼう、と。

 草原が激しく燃えている。


 なぜネルは、〈燃え盛る炎:バーニング・ブレイズ〉という火系統の魔法をチョイスしたのだろうか? ここは草原なのだから、燃えるに決まっている。


「ま、まずいですっ」

「水系統の魔法を使うんだ! 早く!」

「わ、わかりましたっ!」


 俺に急かされ、ネルは魔法を発動させる。


「〈水生成:ジェネレイト・ウォーター〉」


 宙にぷよぷよとした水の塊が作られる。


「――からの、〈魔力爆散:エクスプロード・エナジー〉!」


 水の塊が爆ぜて、雨のように降り注ぐ。

 草原を燃やし尽くさんとしていた火は、無事消えた。消火できなかったらどうしようか、と内心ドキドキしていた。


「いかがでしたか、私のコンビネーション魔法は?」

「いや、わざわざそんな派手なことしなくてもよかっただろ」


 他の水系統の魔法を使うとかさ。

 ネルなら他にも使える魔法たくさんあるだろ。……俺は全然魔法使えないけどな。


「見栄えって重要だと私は思うんです。レンはどう思いますか?」

「時と場合による」俺は冷静に答えた。「で、今はそういうところを重視するような場面ではないと思う」

「そう、ですか……」


 すごいすごい、と褒めちぎられると思っていたのか、ネルはしょげたような顔をした。ちょっと面倒くさい、かも。


「あ、でも、今の魔法もちゃんと当たったな」


 〈魔力爆散:エクスプロード・エナジー〉が〈水生成:ジェネレイト・ウォーター〉で生み出された水の塊の座標に発現し、砕け散った水が草原を燃やす火に命中した。


 最初の〈燃え盛る炎:バーニング・ブレイズ〉を合わせると、三連続での命中。

 はたして、偶然なのか?


「そういえばそうですね……」


 ネルは顎に手を当てて、


「偶然か、必然か……」


 偶然の可能性ももちろんある。母数が三なのだから。しかし、母数を増やして、それでもなお命中率が高ければ、それは偶然ではなく必然――つまりは〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉の効果だと言える。

 というわけで――。


「母数、増やしてみるか」

「そうですね。モンスターをガンガン狩っていきましょう」

「火系統の魔法は使うなよ」

「わかってます」


 ネルは胸を張った。


「賢い私は経験に学ぶんです」


 もっと賢かったら、歴史に学ぶんだけどな。

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