第12話

 スキルは大きく分けると、〈パッシブスキル〉と〈アクティブスキル〉の二種があるらしい。


 パッシブスキルは、何もしなくても常に効力を発揮するスキル。

 アクティブスキルは、魔法のように発動させる必要があるスキル。


 大体のスキルは前者のパッシブスキルで、俺の〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉もパッシブスキルのようだ。

 去り際にエイリが教えてくれたのだ。


「〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉の効果は『仲間にバフを与え続ける』とのことですが……」


 ネルが歩きながら、疑問を口にする。


「この場合の『仲間』とは一体何なのでしょう?」

「さあ?」

「さあって……自分のスキルでしょう? ちゃんと考えてみてください」


 怒られてしまった。

 いや、『怒られた』というよりは、『叱られた』と表現するほうが正しいのだろうか? 


「うーん……」俺は微かに首を傾げた。「俺が仲間だと思ったのなら、それは仲間なのではなかろうか?」

「何ですか、その曖昧基準は?」

「いや、だってなあ……」


 仲間の定義なんか人それぞれだろうし、結局のところ、自分がどう思うかが重要なんじゃないだろうか? 

 あるいは、自分と相手が両方とも仲間だと思うとか。


「まあいいです」


 ネルは立ち止まると、両手で俺の右手を掴んだ。


「さあ、レン。私を仲間だと思うのです」


 ネルは俺の仲間。

 ネルは俺の仲間。

 ネルは俺の仲間。

 何度も何度も自分にそう言い聞かせた。


 ネルとはまだ知り合って数時間しか経っていないが、すごく頼れる仲間のような気がしてきた。コーヒーを奢ってくれたし、鑑定代を出してくれたし、俺を高く評価してくれた。今、一番信頼できるのは、おそらくネルだ。


「なあ、ネル」

「何です?」


 ネルが俺の右手を掴んだまま、上目遣いで首を傾げた。


「俺とパーティーを組まないか?」

「いいですよ」


 ネルはさらっと即答した。

 まったく悩まなかった。悩もうとすらしなかった。


 俺のスキルが使えるものなのかどうかまだわかっていないので、答えを保留されると思っていたのだが……。

 どうしてだろう?


 ネルは俺の手を離すと、歩き出しながら、


「安心してください。もしも、レンのスキルがどうしようもないくらいに使えないゴミスキルだとしても、私はレンを見捨てたりはしません」


 聖女のような慈愛に満ちた口調で言った。


「いや、お前の当たらない魔法も大概だと思うけどな」


 俺の言葉を無視して、ネルは続きを言う。


「将来有望な私は、そう遠くない未来にS級冒険者になるでしょう。そしてレンも、世界の誰しもが知る超有名冒険者となった私の友として、歴史に名を残すことでしょう」

「よくもまあ、そんな誇大妄想できるな」


 呆れる俺に、ネルは不敵に笑って見せる。


「ふふふ……。嘲るのも今のうちです。今はまだ、敵に魔法が当たりませんが、すぐに百発百中になるはずです。そうなれば、世界が私に驚嘆することでしょう」

「……魔法、当たるようになればいいな」


 それは、本心だ。

 Aランクパーティーの加入試験をパスできるほどの実力があるのだから、魔法が当たるようになれば、ネルはトップクラスの冒険者になれるかもしれない。


「レンのスキル――〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉で、魔法の命中率が上がったりしませんかねー?」

「さあ、どうだろうな」


 〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉が仲間にどのような効果をもたらすのか。期待と不安がフィフティー・フィフティー。

 ネルの魔法が当たるようになるバフだったらいいな、と俺は思った。

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