第11話

「――〈すべてを見通す目:クレアボヤンス〉!」


 エイリの両目が黄金に、まばゆく光り輝いた。

 エイリには俺の能力がどんな形状で見えているのだろう? グラフだろうか? 文字だろうか? 数値だろうか? はたまた――。


 エイリの目が宙を泳ぐ。彼女にしか見えない何か(情報)が宙に映し出されていて、それを目で追っているのだろう。


「ふむ。能力値は……どれも低いな」

「……そうか」


 自分の能力が低いことはもちろんわかっているが、改めて言われると、少し傷つくというか……胸が苦しくなる。


「能力値の高低は重要ではありません」


 ネルが真面目な顔をして言った。


「重要なのは、スキルの有無。そして、レンにスキルがあったのなら――多分あると思いますが――そのスキルの中身です」


 ネルは俺を励まそうとして、そんなことを言ったわけではないのだろう。しかし、俺はその言葉に励まされた。


「そうだな」


 俺は力強く頷くとエイリに、


「教えてくれ。俺にスキルはあるのか?」


 と尋ねた。


「少し待て」


 そう言うと、エイリは宙に映し出されているであろうスクリーンを睨みつける。時々手が動いて、本のページをめくるような動作をする。


 やがて、エイリは一点を見つめたまま静止した。時が止まってしまったかのように、あるいは石像にでもなってしまったかのように――。

 表情がないので、結果が俺にとって芳しいものなのか、芳しくないのか、よくわからない。不安を煽られる。


 エイリはぺろりと舌で唇をなめると、


「ネルのシックスセンスも馬鹿にはできないな」


 ふっ、とクールに笑った。


「ということは……」

「ああ。喜べ、レン。お前にはスキルがあるぞ」


 俺にはスキルがある。

 心の中でそう呟くと、喜びがじわりじわりと溢れ出てくる。


 だが、喜ぶのはまだ早いぞ。自分を諫める。重要なのはここからだ。俺のスキルがまるで使えないものだったら、何の意味も価値もない。


「……どんな、スキルなんだ?」

「スキルの名前は〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉」

「アンリミテッド……バフ……」


 俺は自らのスキルを噛みしめるように呟いた。


「おお~。かっこいい名前ですねー。すごそう」


 ネルが無邪気に感想を口にする。

 俺もネルと同じような感想を抱いた。


 〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉というスキルの名前からは、可能性を感じる。まあ、名ばかりスキルの可能性もないわけではないのだが……。


「わかるのは、スキル名だけか?」

「いや。どんなスキルなのかも――簡単にではあるが――わかる」

「教えてくれ」

「――〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉。自らの仲間にバフを与え続ける、という支援系スキルだ」


 ……え。


「……それだけ?」

「ああ。それだけだ」


 うーん、支援系のスキルか……。

 正直に言うと、自分の戦闘能力が上がるようなスキルのほうがよかった。そういうスキルのほうが、直接的に自分の価値が上がる。


 俺が微妙な顔をしていると、エイリは慰めるように、


「そうがっかりするな。仲間を活かすいいスキルだと私は思うぞ」


 仲間を活かす、と言うと聞こえがいいが、ようは仲間がいなければ何もできない――役立たずなスキルなのだ。


「私もそう思います」


 ネルはエイリの考えに同意した。


「パーティーにはサポート役が必要ですから」


 それは俺を慰めるための発言――ではなく、ただ単に思ったままのことを言っただけなのだろう……多分。

 ネルは財布を取り出すと、エイリに鑑定料を支払った。


「毎度あり」


 エイリは金を本が積みあがった机の引き出しにしまうと、ロッキングチェアに座って本を読み始めた。


 ネルは読書に集中するエイリを一瞥して、俺に肩を竦めて見せた。それがどういう意味を持っているのかはわからない。


「さてと。〈限りない支援:アンリミテッド・バフ〉の効力がいかほどのものなのか、さっそく検証しに行きましょう!」

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