第8話

「俺もネルも無能だったからパーティーから追い出された、という点に関しては同じだな」

「いやいやいや」


 ネルは俺の言葉を強く否定した。


「レンは無能かもしれませんが、私は無能ではありません。むしろ、超絶有能ですよ」

「だって、魔法当たんないじゃん」

「当たればすごいんです」

「たらればの話をしてもしょうがないと思うけど?」


 ぐぬぬ、とネルが口をつぐむ。

 しばらくして――。


「私は超絶有能ですが……」


 ネルはもう一度、自らの有能性を説くと、


「レンも私ほどではないですが、なかなか有能だと思いますよ」

「俺が? 有能?」


 ああ、お世辞か。


「お世辞じゃありませんよ」

「じゃあなんだ? 皮肉?」

「違います」

「忖度?」

「違います」

「じゃあ――」

「私のシックスセンスが……」


 ネルは人差し指で側頭部をとんとんと叩きながら不敵に笑って、


「レンが有能だと告げているんです」


 格好つけた言い方だった。格好つけたいお年頃なのかもしれない。まあ、俺もネルとそう変わらない年齢なんだけど。


「……お前のシックスセンスとやらは当てになるのか?」

「当てになる、オア、当てにならない。選択肢は二つ。フィフティー・フィフティーです」


 ネルはまたもや格好つけた言い方をした。


「今までの経験的には?」

「私の直感は今まで外れたことがありません――とまでは言いませんが、まあ、九割近い的中率です」

「魔法の命中率もそれくらいならよかったのにな」

「黙れ」


 ドスの利いた声で、ネルは言った。

 二重人格を疑わせるほど、一瞬でけろりと元の表情に戻ると、


「もしかしたらもしかするともしかして、レンにも秘められた能力が――スキルがあるのかもしれませんよ」


 ネルは身を乗り出して、そんなことを言った。


「スキル?」


 スキルという言葉に聞き覚えがないわけではない。言葉自体はどこかで聞いたことがある。しかし、それが何なのかは知らない。

 俺はお世辞にも学があるとは言えない。


「スキルってなんだ?」

「えっ? 知らないんですか?」

「うん」

「本当に?」

「うん」

「まあ、スキルを知らない人がいても、おかしくはないのかなあ……?」


 ネルはぶつぶつと呟いた。


「でも、冒険者をやっているのにスキルを知らないのは、常識が欠落していると言わざるを得ませんね……」

「誉め言葉か?」

「貶してるんですっ!」


 ばんっ、とネルはテーブルに手を叩きつけた。

 やれやれ、とでも言わんばかりに肩を竦めると、


「スキルというのは、なんと言えばいいのか……まあ、特殊能力のことですね」


 ネルはスキルについて説明し始めた。


「例えば……〈剣術〉のスキルを持っていれば、剣の腕前にスキル補正がかかります。同じくらいの熟練度でも、〈剣術〉のスキルを持っているかいないかで、腕前が結構変わってくるんです」

「補正、か……」


 きっと、セドリックはたくさんのスキルを持っているんだろうな。


「スキルは基本的に先天的に保有しているものです。後天的に手に入れることは滅多にありません」

「一パーセントくらい?」


 尋ねたのは、後天的にスキルを入手できる人の割合だ。


「そんなに高くありませんよ」ネルは首を振った。「おおよそ、れーてんれーれーれー……くらいです」


 よくわからないが、思っていたよりも低いということはわかった。


「簡単な説明ではありますが、スキルがどういうものなのか、なんとなく理解できましたか?」

「うん、まあ、なんとなく」

「……そこは『ばっちり理解したよ』と言ってくれても構わないのですよ?」


 ネルはやはり無理矢理おいしそうに――自己暗示をかけながら――コーヒーを飲み、俺は普通においしくコーヒーを飲む。

 コーヒーを飲み干し、ふう、と息を吐くとネルは立ち上がった。


「では、行ってみますか」

「行くってどこに?」

「鑑定屋さん」

「鑑定屋?」

「レンの能力値やスキルを見てもらうんです」

「それって自分ではわからない能力なんかも――すべてわかるのか?」

「もちろん」ネルは頷く。「丸裸にされて、丸わかりですよ」


 いやらしい言い方だった。


 ネルは会計を済ませると(ドリンク一杯にしてはかなり高かった)、俺の背中をぐいぐいと押して外に出た。


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