左足のお支払いお願いします。

橋本鴉

左足のお支払いお願いします。

 これは今から3年ほど前に起きた事件の話である。

女子大に通う華鈴(かりん)と2人の友達はフリマアプリにハマっていた。

彼氏もおらず、裕福でもない彼女らはそのアプリで比較的安価な買い物をし、

不要な持ち物を出品して小遣い稼ぎをしていた。

いつも通りの学食。華鈴がフリマアプリである物を見つけた。

「ねえ見てこれ!『左足 ノークレームノーリターン』だって!25万!ウケる!」

面白半分で華鈴は購入ボタンを押してしまった。

どうせ相手もいたずらだし、このまま支払いが一定期間なければ相手側もキャンセルできる。

そう考えていたのだろう。その時は・・・。


 翌日、同じ学部の美咲から華鈴たちに合コンの誘いが来た。

どうやら参加予定だった3人が行けなくなったためらしい。

美咲は常に彼氏が途切れない女子だ。次から次へとイケメンと付き合っている。

そんな彼女の誘う合コンならきっといい男が待っているに違いない。

華鈴たちはそんな期待に胸を膨らませた。


 そして当日、華鈴はフリマアプリで購入したお気に入りの服を着て

指定された個室居酒屋へと向かった。席に着き美咲たちと合流し、男も人数分揃った。

イケメンもいたが、その男は真っ先に美咲の前に座ってしまった。

あとは平均点並みかそれ以下といった所だろうか。

すると一人の男が「すみません、追加でもう一人来るみたいなんですよ。」と言った。

華鈴たちは期待した。どんな男が来るのだろう。

数分後、現れた男は真っ黒な服にボサボサの髪、銀縁のメガネのコウモリのような男だった。

「え・・・。あれはないね・・・。」華鈴たちは小声で言った。

席をシャッフルしたり、色々と楽しませようと男たちが頑張っているのは分かったが、

華鈴たちはどうにも馴染めなかった。結局穴埋めで呼ばれただけだと。そう言い聞かせて先に帰ることを決意した。

トイレを済ませ、華鈴が個室に戻ろうとした時だ。あのコウモリ男がこっちに寄ってきた。

気持ち悪いのでさっさと戻ろうとしたが、男は近づいてこう言った。

「か、かりんちゃん・・・。一番かわいいよ。僕も急ぐから待っててね・・・。」

異常さを感じた華鈴は何も言わずに走り去った。コウモリ男の言っている言葉の意味は分からなかったが、

きっとストーカーにでもなりかねない。これ以上自分のことが知られる前にと急いで

美咲に参加費を渡し、走って帰った。


 翌日、先に帰ってしまったことを友達にLINEで平謝りする。

どうやら彼女らもあの後すぐに帰ったようだ。

美咲からは「またよろしくね~。」なんて言われたみたいだが、もう絶対行かないと愚痴をこぼしていた。

今日は日曜日。ゆっくり家で休もう。そう思ってた矢先だ。華鈴の部屋のインターホンが鳴った。

ドアを開けると、なんとそこに立っていたのはコウモリ男だった。「キャー!」華鈴は悲鳴を上げ、

扉を強く閉めて鍵をかけた。

すると、インターホンのカメラ越しに男がニヤニヤと笑いながら言う。

「ふ・・・ふふふ。僕の左足、買ってくれたのはどんな人なのか・・・。確かめたくて昨日合コンに行ったんだよ。

かりんちゃんで良かったなぁ。もう準備できてるからね。」

そう言い、カメラに映した下半身には左足がない。それを見た華鈴は一瞬で血の気が引き、その場に倒れこんでしまった。

目が覚めた頃には夕方になっていた。悪い夢でも見ていたのだろうか。華鈴はそう思うことにした。

しかし、携帯を手に取るとフリマアプリを通じてメッセージが20件以上も来ている。

華鈴はすっかり忘れていたが、開いてみると、先週面白半分で購入ボタンを押した左足の取引メッセージだった。

出品者はなんとあのコウモリ男。

『左足、綺麗に梱包したからね』『会いたいなぁ』『家まで行くよ 送料もったいないもんね』

『25万円早めに払ってね』といった異常なメッセージが並んでいる。華鈴は怯えながら必死に無視を続けた。

深夜0時になってもまだメッセージが来る。段々と言葉遣いが荒くなり、

『なんでシカトしてんだよ』『早く25万渡せよ』『また家まで行くぞ?』と脅迫めいたメッセージが立て続けに来る。

華鈴は怖くなり、急いで警察署に駆け込むことにした。家を飛び出し、走る走る。あの男が家に来てしまう前に。

踏切前で立ち止まる。ここの踏切は長い。華鈴は、早く開いてくれと願うばかり。

そんな時だった。一人の男が松葉杖をついて近づいてきた。帽子をとったその男はコウモリ男だった。

「キャー!助けて!」華鈴が叫んだ。「大人しくしてくれたら何もしないよ?25万円、ある?」と男が言う。

華鈴は「ごめんなさい、冗談のつもりだったんです!払えないです!助けてください!」と叫んだ。

男は笑いながら「ふ・・・ふざけるなよ。俺は足切断したんだぞ!冗談で済むと思ってんのかよ!お前も同じ目に合え!」と叫んだ。

その時、やってきた電車のライトが二人の顔を照らした。それからほんの数秒だった。

線路に飛び込んだ2人の男女を電車が撥ねた。一瞬の出来事だった。

警察の捜査では恋人同士の心中と処理された。それ以上の捜査は今に至るまでされていないようだ。


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