024話 VSオウカ 後編
「負けた」
「イキるからだ」
「殺す」
二戦目。
オウカは情報を探るためか消極的だった一戦目と違って、開幕からさらに全開で攻めてきた。
いきなり自分の頭をぶん殴った時はどうしたのかと思ったが、自傷して《逆境》の攻撃力上昇を稼いだらしい。
そしてそこからの全力攻勢。
まだ状態異常を付与できれば勝機はあったが、虚を突いて放たれた爆発魔法が直撃。
そのまま叩き潰された。
一勝一敗。
くそー魔法か。
あいつのステータス的に使ってもおかしくなかったが、完全に意識から外れてたな。
「あーそうか《逆境》は《復讐》は魔法攻撃力も上がるのか」
「魔法系スペルも研究したい」
三戦目。
オウカが全力攻勢で向かってきたのは同じ。
だが上手いこと弾きがジャストで決まり、体勢を崩した無防備な所に致命毒撃。
そのまま《忍耐》ごと毒攻撃系スペルで切り刻んで俺の勝ち。
弾きが運良く綺麗に決まったのと、致命毒撃が数回クリーンヒットしたのがでかかった。
あれがなかったらジリ貧になって、二戦目の二の舞になってたな。
一度体勢を崩しさえ出来れば、復帰させないように延々と切り刻んだり、致命毒撃を連続で入れることはできる。オウカは復帰が上手いからな。的確にそれを潰すのは神経使った。
二勝一敗。
持久戦主体の戦法なのに押し込まれてジリ貧になるのは、やっぱりオウカの火力がおかしいからだ。
「毒強いなマジで。やっぱお前の逆境ビルドに刺さると思ったけどドンピシャだった」
「ズルい」
「ズルいのはお前の対策アニマだろ。短時間か一定量かどっちだ?」
「教えない」
四戦目。
今度はオウカが最初から向かってこなかった。
一戦目と似たような立ち回りで、オウカが俺の致命毒撃をわざと食らった。
毒は上手いこと対策で防がれたらしく、そのまま“リベンジストライク”の反撃が飛んできて終了。
二勝ニ敗。
スペルの詳細は知らないが、“マキシムストライク”より威力が増していた。
スペル名的に、《復讐》で溜まる《リベンジウィング》の参照でもしてんのか?
まさか即死するとは思わなかった。リスポーンしたのにまだ体が痛い気がする。
「お前あのスペル何なんだよ」
「教えない」
「あと一戦終わったら教えろよ」
まあ言うてお互い大体装備アニマを把握したけどな。
オウカは恐らく、俺への対策アニマを謎の状態異常一括耐性以外に積んでねぇ。
それに結構なキャパシティを割いてるが、残りを全て自分の戦法の補強に使ってる。
流石にワンパンはそうじゃないと出せないだろ。出せないよな?
ついでに、逆境ビルドで高められた超攻撃力が俺対策にもなってる。弾けないからな。上から叩き潰されたらどうしようもない。
あの魔術系アニマは牽制用で、恐らく俺対策じゃない。純粋に俺だけに刺さる魔法ってのがイマイチ想像しづらいのもあるけど。
隠し玉があると見て動くべきではあるな。
そしてオウカも、俺が積んだアニマを把握したはず。
若干のダメージ軽減になっている《物理障壁》。ずっと使ってる状態異常付与アニマ。
そして《反撃毒》。
超ダメージに超スタックの毒を返すことができる。
コイツがでかいな。オウカのアホみたいな攻撃力に対する最大のカウンターだ。
オウカの攻撃力で俺は簡単に死ぬし、オウカは逆に瀕死になってるせいで毒で簡単に死ぬ。
これのお陰で短期決戦に拍車がかかってる感があるけど、まあいいだろ。
さて。
五戦目だ。
「“毒霧”!」
一直線に突っ込んできたオウカめがけ、毒の塊を飛ばす。
オウカは気にする様子もなく突っ込んでくる。
だがこれで対策の耐久度が減ったんじゃないか?
いや、一定時間無効なら気にする必要もないか!
どっちかは分かんねぇ!
「“爆炎”」
お返しとばかりにオウカが炎を放つ。目の前が炎に包まれる。
クソ、発生妙に速いぞこの魔法!
避けられねぇ!
そして、ボッと炎を突き破って振り下ろされるハンマー。
読めてたぞ!
煙幕を使う時のオウカは、常に正面から来る。
視界を潰し、全方位に注意を割かせた瞬間、最速で正面から叩き潰す。
常套手段だ。
……いや、俺がそれを知ってるってコイツは分かってる!
その上で正面から来たってことは!
「“インパクトストライク”」
簡単には弾けない攻撃……スペルで来るよなぁ!
全力で飛び退る。
先と同じ超威力の衝撃が地面を粉砕する。
もうこの廊下グチャグチャだぞ。床抜けねぇか心配だ。
あーもうどうでもいいこと考えるな!
「“毒霧”!」
炎を突き抜けてきたオウカに毒弾をぶつける。
顔をしかめたオウカだが、すぐに体をねじり、冗談のような勢いで飛びかかってくる。
この動きは母さんから伝授された朧流だな!
俺も教えてもらったがイマイチ活かせているとは言い難い技。
全身の筋肉をバネに見立て、全力で跳躍し距離を詰める歩法……歩法?
とにかくそのための技だ! 技名は知らねぇ! というかうちの親、技に名前つけない! お陰でわかりづらくてしょうがない!
オウカがこれを使うのは初めてだ。
だがリアルで母さんと組手した時にこれで伸されたからな。経験済みだ!
タイミングを見て弾く!
ガギッ、と俺が振り上げた刀が、オウカのハンマーを跳ね上げる。
もらったッ!
「“致命毒撃”!!」
振るう刃がオウカをざっくりと切り裂く。
このまま切り刻んで……。
ッ!?
その体勢から動くのか!?
不安定が過ぎる体勢から無理やり体を起こしたオウカ。
握るハンマーが、赤く刺々しい光を纏う。
……弾かれて喰らうところまで計算済みかコイツ!!
いい加減俺が当たり屋戦法に対応するだろうから、怪しまれないようにしたわけだ!
体勢の復帰、無茶な動きに関してコイツは俺より遥かに優れてる!
あの状況からでも立て直すことを想定すべきだった!
「“リベンジストライク”」
「うぐぁ!!」
《物理障壁》のお陰で若干威力が削がれた。
だがさっきから何度も喰らっている超威力の一撃を腹にもらった。
お、おま……腹はやめろや……夕飯出そう。
クソ、気持ち悪いがここはVR内。現実には関係ねぇんだ!
だがいい加減毒が入ったんじゃねぇか!?
起き上がってオウカに向かい合えば、仏頂面に苦しそうな色が浮かんでいた。
毒対策が剥がれたな!
「“リベンジストライク”!」
これ以上毒を受ける前にこれで決める気だな!
ならこれで返してやる!!
これまでの試合で使ってこなかった……というより今さっき思いついた隠し玉だ!
「“斬撃拡大”!!」
これで迎え撃とうってんじゃない。
刀の軌道を調整。
コイツでリベンジストライクを弾いてやる!!
「んっな!?」
思わず声を上げるオウカ。
「ぶっつけ本番だが上手く行ったぜ!!」
オウカの膂力を殺さず、方向を変えさせあらぬ方向に跳ね上げる!
さぁこれで終わりだ!
「“致命毒撃”!!」
「……負けた」
ぶすくれるオウカ。うるせぇ仕掛けてきたのお前だろ。それで負けて文句言うな。
「スペルでパリィとか……」
「お前の攻撃が超威力なら、こっちの弾きの威力も上げればいいだけだってことにさっき気づいたんだよ。弾き専用のスペル作るべきだな」
「それも叩き潰せるように威力上げるべきか……」
「なんでそんな脳筋なんだよ」
「は?」
「は? じゃねぇんだよ。今のセリフに否定の余地一切なかっただろ」
「じゃあ強い魔法を……」
「何も変わってねぇ。筋力ビルド=脳筋ってことじゃねぇんだよ。それ攻撃手段が魔法に変わっただけだろが」
ぶーぶー文句を垂れるオウカ。勝てる戦いだと思ったから仕掛けてきたのは理解できるけど、俺を舐めすぎだ。
「で、結局状態異常対策は何だったんだ?」
「これ」
================
●《異常障壁》
◇自身に悪性状態異常が付与される際に発動します。
◇異常障壁を生成し、自身への悪性状態異常を無効化します。
◇異常障壁には耐久値があり、無効化できる悪性状態異常の強度に上限があります。
◇異常障壁の耐久値は時間経過で回復します。
================
ほーーー……。
《物理障壁》の状態異常バージョンがあったのか。
一括で状態異常全体に耐性ができるわけだ。
「グレードⅣとⅡを積んでた」
「Ⅴだと重すぎるからか。アニマ構成見せてくれ」
「ん」
================
●キャパシティ上限:38 使用可能:8
《復讐武術》 Ⅰ 基礎 消費1
《追放魔術》 Ⅰ 基礎 消費1
《復讐》 Ⅲ 常時 消費6
《忍耐》 Ⅱ 常時 消費3
《異常障壁》 Ⅳ 常時 消費10
《異常障壁》 Ⅱ 常時 消費3
《逆境》 Ⅲ 常時 消費6
================
ガッツリ《異常障壁》にキャパシティ割いてるな。
これが相当に状態異常を防いでたわけだ。
複数の状態異常を使う俺には確かにメタとなるアニマだ。
と言うか、推測通りマジでこれしか対策積んでなかったのか。潔いと言うか何と言うか。まあ、俺も
「そっちは?」
「俺? 俺は《物理障壁》と《反撃毒》ぐらいだな。お前対策に積んでたのはこの二つ。順当に状態異常が対策にもなってたからちょうどよかったな」
「そう。……ほんとだ。あとグレード低め」
「やれることを増やそうと思うとどうしてもな。毒単品だと対策されるかと思ったんだよ。《毒耐性》とかあっただろ? あれでガチガチに固められた時に、呪縛とか毒性麻痺を通るようにしておきたかった」
「なるほど」
「……ああ、でも対策として積むか迷ってたのはあるな。これだ」
================
●《迎撃》
◇自身が対象からの攻撃を迎え撃とうとした場合に発動します。
◇対象への迎撃行動に上方補正が適用されます。
================
「……何この曖昧な効果」
「思うよなそれ。上方補正って何だろうな。全体的に行動の結果がいいものになる……みたいな感じだとは思うけど」
「これで弾きを強化するってわけ」
「そう。できるか怪しかったのと、積んでもお前の超威力攻撃に上から叩き潰されそうで意味ねぇかなって思って」
オウカの言う通り、文章が絶妙に曖昧なんだよな。
対象からの『攻撃』に対してのこっちの行動に上方補正がかかるのか、攻撃してきた『対象そのもの』に対して上方補正がかかるのか。この二つ結構違うと思うんだよな。
前者なら遠距離攻撃を弾くとか、俺の朧流みたいに近接攻撃を弾く時に使えそうだ。純粋に防御寄りの戦法なら取って損はない。
でも後者……対象そのものにしかかからない場合は、遠距離攻撃に弱いし、うまく攻撃をすり抜けて本体を殴る必要が出てくる。俺のスタイルだとこっちを取る必要はそんなにない。というかこっちの場合だと弱いな。
両方って可能性もあるけどな。
検証する時間がなかったのが装備しなかった一番の理由だな。
「あ、近距離にしか反応しない、っていうパターンの可能性もあるのか……」
「後で試せばいい」
「上方補正ってのをどう確認するかって問題もあるけどな」
ダメージも上がるんだったら簡単ってわけでもない。『攻撃』に対してだとダメージ計れないし。
「他になんかないの」
「他? そうだな。いくつか死なば諸共系アニマとか、お前が使ってるような食いしばり系アニマとかあったけど、何かズレてるなって」
自分も死んでちゃ勝ちとは言いにくいし、食いしばり系はオウカと被るし。
「確かに。私も《毒攻撃》あったけど使おうと思わなかった」
「まあお互いの基礎戦法を使っての対戦って趣旨だったしな」
「ちなみに死なば諸共系ってどんなの?」
「こんなの。ほら見ろよこれ」
================
●《足掻》
◇自身が死亡した際に発動します。
◇自爆します。
================
「ふふっ……」
「シンプルis愉快なんだよな」
誰が使うんだこんなアニマ。
「ところで、そろそろお風呂呼ばれそうじゃない?」
「あ、それもそうだな……。続きは風呂入ってからにするか。先お前行って来いよ」
「んー」
アニマ選定に結構時間かけちまったしな。
続きは後だ。俺もログアウトして適当に何かしよう。
ダメ元でもうちょっとネットに情報ないか調べてみようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます