025話 鬼に金棒だな


 さて。


 千春も俺も風呂済ませたし、続きやるか。

 寝る準備も終わらせたしあとは時間が許す限り遊ぶだけだ。


 ちなみにネットに情報は一切なかった。クソが。


 ログインして祭壇に触れ、アニマ設定を開く。オウカと対戦した時のまんまだからな。


「どうする?」


「そうだな……まあ探索は続けるとして、いい加減武器新調したいな。ボロボロだ」


「確かに。曲がって戻してを繰り返してそろそろ折れそう」


「お前の攻撃力で振ってて、逆に今までよく壊れなかったな」


「どういう意味」


「そのまんまだよ。どうもこうもねぇよ」


 とにかく、『最初の試練』前の部屋で見繕った初期武器だけど、最初からボロボロだった割にはかなり耐久力があった。心臓頭と戦ってる時とか全く加減してなかったけど、それでも折れなかった。


 こいつが特別頑丈なのか、それとも『耐久度100』みたいな数字があって、0になった瞬間砕け散るみたいな感じかのどっちかだな。


 不可解なことを『ゲームだから』でスルーしていいのか分かんねぇんだよなこのゲーム。


「結構道端に落ちてることもあるけど」


「拾う余裕なんてなかったしな……。あとちょうどいいのないだろ? 刀を見かけた記憶ないんだよな」


「目玉剣士が長剣落としたことはあったけど」


「え、このゲーム敵からのドロップあんの?」


 今までにドロップ見たことないぞ。


「看守も手斧落とした。心臓頭にぶん投げたやつ」


「マジか。……よく考えれば、武器持った人型の敵あんまり倒してねぇわ俺」


「もしかしたら、その辺の武器を拾ってただけかも……」


「有り得そうだ。でも目玉剣士って剣が腕に癒着してたよな?」


 あれ体の一部じゃねぇの?


「そう言えばそう。やっぱりドロップかも」


「マジか。じゃああの三つ首天使が持ってた槍とかも使えた可能性があるのか?」


「あれ大きすぎて無理でしょ」


「それもそうだ」


 天井に引っかかるどころか、そもそも握るのも大変だ。人間用じゃねぇしなあれ。


「さて、俺は準備できたぞ。弾きのスペルも作ったし」


「アニマは?」


「そのままでいいかなって」


 《反撃毒》だけどうしようか悩んだけどな。でも《物理障壁》を割ってくるような敵相手のカウンターにもなるしちょうどいいだろ。


「お前は?」


「私はグレード低い方の《異常障壁》を《下剋》に変えた」


「どんな効果?」


「ん」


================

●《下剋》

◇自身のレベルより敵対者のレベルの方が高い場合に発動します。

◇自身の与えるダメージ量が、レベルの差に応じて上昇します。

================

 

 なるほど。レベルの差ね。


 とことんこういう方針でビルド進めるつもりだな?

 特化させると強いだろうしいいね。頼もしい。


「じゃあ行くか」


「うん」


 ……そうして進むことしばらく。


「……敵が弱い」


「多分逆だ。俺たちが強いんだよこれ」


 でもオウカの言う通り、マジで敵が弱い。囚人は……元から弱かったけど、目玉剣士とか腕のウニも雑魚同然だ。


 まあ攻撃食らうと結構なダメージもらうのは変わってないけど、それでも見敵必殺ができる時点で相当楽になってる。


「オウカ、お前目玉剣士と腕の怪物、レベルいくつの時に倒した?」


「3と5」


「俺も似たようなもんだな。今30台だもんなぁ……」


「ステータス覚えてないけど、物理攻撃1000はなかったと思う」


「今いくつだっけ?」


「3800」


「そりゃこうなるか」


 オウカのフルスイングで、見事に顔を叩き潰された腕のウニがポリゴンになった。


 他にも色々出てきた。

 なんて言ったらいいかなアイツ……脚のヒトデ? みたいな変なやつとか。

 コイツは毒で死んだ。それはもうあっさり死んだ。確実にアニマで与える毒の効力も上がってるなこれ。


 あと、物理攻撃に耐性ありそうなスクラップ人間とか。

 斬撃は効きそうになかったけど、オウカのフルスイングでやっぱり粉々になった。俺でも斬れたかもしれない。普通に考えたら無理だけど、このゲーム物理攻撃力が上がれば刀の切れ味も上がる。


 いや、大体のゲームそうなんだけどな。攻撃力さえ積めばダイヤモンドのゴーレムだって一刀両断できる。色々リアルに近い部分が多いせいで時々混乱する。


 ゲーム的妥協なんだろうな。

 そんなのより先にUI実装しろやって話なんだけど。


「コガラシ、あっちに目玉剣士3匹」


「なんかさっきから多くね? 殺る?」


「殺る」


 30秒もしないうちに全滅する目玉剣士。俺の出番なかったな。


「殺意高いなぁ……」


「刀に毒を塗った人に言われたくない」


「厳密には違うんだけどな……」


「そういう問題じゃない」


 そんな気の抜けた会話をしつつ、周囲に気を配る。

 と、何気なく覗き込んだ部屋がいつもと様子が違う。


「食料庫か?」


 打ち捨てられたボロの倉庫みたいな所は見たことあったけど、こういうとこは初めてだな。

 燻製にされた肉が天井からいくつもぶら下がっていたり、山みたいに果物が盛られたカゴが並んでいたり。野菜もあるし、パンとかも当然あった。


「うまい」


「……は? え? お前……」


 オウカがぶら下がっていた鶏肉の燻製らしきものの……腿の部分? を引きちぎって食べていた。


 ターキーレッグ……って言えばいいのか?

 ってかお前……。


「そ、そんな躊躇なく……」


「想像してた数倍おいしい」


 ま、マジかコイツ……。こんなとこにある食料なんて、普通食おうとは思わねぇだろ。あと夕飯に唐揚げたらふく食ったじゃねぇか。いやここで食っても腹膨れねぇし、逆にいや満腹でもいくらでも入るんだけどな。


「毒あったらどうするんだよ」


「《異常障壁》がある」


「……それ、体の中からの毒にも反応すんのか?」


「ん゛っ……。…………大丈夫」


「ウソつけ絶対お前確証ないだろ」


 でもほんとに美味そうに食うな。

 ……。


 俺もちょっとだけ……。


 備え付けられていたナイフで薄く切って口に入れる。


「……確かにうまいな」


「でしょ?」


 ……今までのVRゲーム、味覚再現してるやつあったっけ? 俺が知らないだけかもしれないけど、この点も結構珍しいよな。


 戦闘要素に味覚何も関係ないけど。

 あ、でもそう言えば《技能アニマ》の欄に《調理》があったな。料理が回復アイテムになってたりすんのかな? それかバフアイテムとか?


「他にめぼしいものは……」


「奥に別の部屋がある」


「行くか。……ここにあるのはあって果物ナイフか包丁だろ」


「人斬り包丁みたいなのあるかも」


 あー。あの血糊で切れ味悪くなってそうなあれな。


「ホラゲーの敵が持ってるようなあれか。……流石に……いや、ありそうだな」


「使えば?」


「嫌だよ。何で俺に勧めるんだよ。使うならお前がだろ」


「は?」


「は?」


 前々から思ってたけど、コイツ俺のイメージどうなってんだ?


「まあいいや。行くぞ」


 食料庫の奥に行くと、そこは武器庫だった。


 何で?

 スタート地点……あの『最初の試練』の手前の祭壇の部屋みたいに、これでもかと言わんばかりに武器が並べられている。


「調理道具」


「物騒な調理道具だなオイ。槍とかどう使うんだ?」


「焼き加減の確認」


「大穴開くだろ」


 でも渡りに船だ。武器ここで新調しよう。いい刀あるかな?


 オウカも持っていたハンマーを立て掛け、武器を探し始めた。

 ってお前食いながら探すなや。と言うかまだ食ってたのかよ。


「うまい」


「太るぞ」


「殺す」


「……うぉあテメェ!!」


「ふん」


 手近な所にあった斧ぶん投げて来やがった。当たってたらどうするつもりだよあぁん?


 まあ《物理障壁》あるんだけどな。流石にさっきの雑な投擲で割れはしないだろ。

 刀、刀……鉈は違うんだよな。……お、これとかいいな。今使ってるやつと大体同じだ。


 よし。俺は早いとこ見つけたぞ。オウカはどうだ?


「いいのあったか?」


「あったけど……どれを使うか迷う」


 オウカが持ち出してきたのは、今のよりさらに大きいウォーハンマー、片刃の大斧、鉄板みたいな剣の三つだった。どれもオウカの背丈ほどある。


 オウカはどのゲームでも、パワーファイターなのは変わらない。

 けど、使う武器はゲームや敵、チーム構成に合わせてその都度変える。火力が出そうな武器なら何でも使う。


 トバリのパーフェクトオールラウンダーっぷりに霞みがちだけど、そういう点から見るとコイツもヤバいんだよな。同じ長物の特大武器でも、剣や斧、刀やハンマーじゃ扱いは全く異なる。一番得意なのは打撃武器らしいけど、それらを完璧に使い分けるのはオウカの才能だ。


 あんまりしないけど格闘戦も上手いしな。


 俺は逆に刀しか使えない。あ、使えないってのは語弊があるな。『使いこなせない』だ。咄嗟に刀に最適化した動きをしちまうんだよな。


「うーん……。個人的にはハンマーにしてくれるとありがたいな」


「はんへ?」


「食いながら喋るな」


 いつまで食ってんだよ。


 ……あ、コイツ食い切る気だな? まあいいけどさ。


「えーと。なんでハンマーがいいかって、そりゃ打撃武器だからな。斬るのは俺ができるし。他二つも重量に任せて叩き切ることはできるだろうけど、結局は斬りだ。さっきのスクラップ人間みたいな奴を相手するにはやっぱり打撃が一番だろ」


「確かに。壁とか壊すのも一番楽だし。これにする」


 オウカは自分の身の丈ほどあるハンマーを軽々と肩に担ぎ、すっくと立ち上がる。


 ……うん。

 やっぱりここで思うのは、何でキャラメイクを赤鬼モチーフにしたんだろうってことだ。


「鬼に金棒だな」


 厳密には違うけど。金棒は金棒でウォーハンマーとは形違うしな。


「服が虎柄だったらなぁ」


「……? …………」


 オウカは無言で、こちらに向けてハンマーを振り上げた。

 おい待て。そんな見た目にしたお前が悪いだろ!


「いてえぇ……」


「天誅」


「本気で殴るやつがあるか」


 《物理障壁》当然のように割れたんだけど。


「したり顔がムカついた」


「は?」


 こ、こいつ……。


 お前がトバリの動画視聴者から『オウガ』とか言われてんのは日頃の行いが原因だろが。

 そんな奴がマジで鬼みたいな格好してるんだから面白いに決まってんだろ。


 でも仕返ししたら毒で死にかね……いや《異常障壁》あるじゃねぇか。

 ……いや、やめとこう。確実にエスカレートしてそのままPvPになる。


 クソ、ここは義理のだが兄として水に流してやろう。俺は寛大なんだ。


「他はいいのか? 俺は小刀持っておくけど」


「……投擲用の手斧持っとく」


 オウカはハンマーを置いて、肉を齧りながら手斧を探しに行った。


 はよ食え。


 その間、俺はいくつかある出入り口から外を覗く。

 全部通路だった。残念。


「防具の倉庫はなさそうだな」


「鎧は重いからいらない」


「俺もだ。と言うかこのゲーム耐久ビルドってどうなんだろうな?」


「さぁ? 纏わりつかれてお終いじゃない」


 順当に考えてそうなるよな。

 『防御力』でダメージが管理されてる、低難易度のゲームならいい。頭が剥き出しでも、体に装備した鎧の防御力のお陰で結構な耐久がある、って感じだな。


 これまでのゲームにも、重さとかがちゃんとシミュレートされてるゲームはたくさんあった。俺とオウカはそんなリアル志向よりのゲームばっかりやってたからよく分かる。


 んでこのゲームだよ。どう考えても鎧が意味を成さない敵ばっかりだ。しかも、重さとかもゲーム的な法則の上で成り立ってる重量制限なんかじゃなくて、マジもんの重さになる。

 重りにしかなんねーんじゃねぇか?


「それか、俺らがまだ持ってないアニマでいいのがあるかだな」


「たしかにそれはありそう。一定時間無敵とか?」


「強すぎだろそれ。……無いとは言い切れないけど」


「あとは《復讐》に近いタイプのカウンターとか」


「なるほどな」


 アバターの身体能力なら普通に動ける可能性もあるしな。

 でも、俺もオウカも軽量のが好きだ。防具倉庫があっても、付けて篭手ぐらいだな。 


「……魔法の武器みたいなのはなさげ」


「確かに、せっかくのファンタジーなのに見たことないな。ただ、ああいうのは得てして貴重なもんだろ。こんなとこに無造作に置いてある方がおかしいと思うけどな」


「それもそう」


「序盤だから手に入らないってことなのかもな」


 序盤だよな? 序盤で合ってるよな?


 それも現状見えてる最後の敵が『最初の試練』なんて名前なのが悪いんだよ。


「……でも、見つけても持っていくのは大変そう」


「インベントリないもんな……」


 バックパックでも探すか作るかして自分で持ち運べってか?

 そういう所のリアルさはいらねぇんだよ。グラフィックはマジで現実なのに……。追求する力加減間違ってんだよなぁ。


「もし見つけても効果とかが書かれたUIとか一切出なさそうだよな」


「確かに。でもアニマの効果説明はちゃんとある」


「アンバランスだよな……。まあ、見つけてからだな。手斧は見つかったか?」


「うん」


 よし。なら行くか。どこにかは決めてねぇけど。まあ行ってないとこ行き続けてたらそのうち碑石見つかるだろ。


「聖剣エクスカリボーン」


「アホ言ってねぇで行くぞ」


 食い終わったんならとっとと捨てろって。いつまで持ってんだよ。

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