023話 VSオウカ 前編
このゲームの毒はHPが1残ったりしない。キッチリ死ぬ。HP1の状態で毒になろうものなら当然即死だろ。ダメージボーナスを得て、HP1で耐えるオウカからすれば天敵だ。
ただ、不確定な部分もある。いけると俺は踏んでるけどな。
まず、毒のダメージがどんな扱いなのか。
そして、オウカの生命線、《忍耐》アニマの仕様。
この二つが推測通りなら上手いこといけるとは思う。
《忍耐》アニマの仕様はこうだ。
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●《忍耐》
◇自身の残りHPを上回るダメージを受けた際に発動します。
◇忍耐障壁を生成し、自身のHPを1残して超過したダメージを無効化します。
◇忍耐障壁には耐久値があり、無効化できるダメージ量の上限があります。
◇忍耐障壁の耐久値は時間経過で回復します。
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これの効果は『ダメージの無効化』だ。
もし、毒の仕様が『ダメージ』ではなく『HP減少』だったなら、これをすり抜けるんじゃないか?
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●《毒》
◇持続的にHPが減少します。
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これだけとは誰も言ってない、みたいな説明文だよなこれ。詐欺だぞ。
まあ、結局の所HP減少もダメージ扱いならあんまり意味ねぇんだけどな。
あと、『忍耐障壁』とやらが貼られる前に体が毒に侵されてたら、障壁の内側からダメージが入るんじゃないかっていう期待もある。
そんな感じで毒は結構有効な手段なんじゃないかと思ってるけど、それだけに当然対策もしてくるはずだ。オウカは脳筋だけど、このことに気づかないほどバカじゃない。
どんな対策を積んでくるかだな……。無難に《毒耐性》とかか?
そうなると呪縛や毒性麻痺の耐性はザルになるだろうな。もしそれで上手く動きを止めることが出来たら《忍耐》なんて関係なくなる。動かないカカシを切り刻むだけだ。
まあ俺の攻めるためのアニマはいつもどおりでいいだろ。通常攻撃に毒と呪縛と麻痺が付いてるって普通に考えてめちゃくちゃ強いし対策も難しい。
さて。
次はオウカ対策のアニマだな。
逆境ビルドっていう特性はあれど、オウカは単純明快な物理攻撃主体のパワーファイターだ。だから対策も簡単……ってわけではない。
そりゃ取る方針は簡単に決まる。だけどリスクを背負ってる分、ただ一つの攻撃方法がアホみたいな性能になってるんだよな。さっきの実験からもそれは分かる。流石に《復讐》Ⅴ二つみたいなアニマ構成してくるとは思えないけど、結構な火力があるはずだ。
……してこないよな?
動きが鈍ってても数発喰らったら死ぬもんな。無理を通して全力でぶん殴ってくる可能性もないでもない。ただ、その場合は頑張って躱して状態異常まみれにすればいい。
まあ、いくつか対策は考えてある。さっき見てたアニマの中に結構いいものがあった。ガンメタとまではいかなくても、多少は有利に戦えるだろ。
「準備できた」
「よし、俺もいいぞ」
「どこでやる?」
「この廊下でいいだろ。地下鉄ぐらいの広さはあるし。敵がいないかだけチェックして」
乱入されると面倒だからな。
どこからかやってきていた囚人を始末し、俺とオウカは武器を構えて向かい合った。
俺のアニマ構成はこう。
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●キャパシティ上限:32 使用可能:0
《鬼武武術》 Ⅰ 基礎 消費1
《猛毒魔術》 Ⅱ 基礎 消費3
《毒攻撃》 Ⅳ 常時 消費10
《呪縛攻撃》 Ⅲ 常時 消費6
《毒痺攻撃》 Ⅰ 常時 消費1
《反撃毒》 Ⅲ 常時 消費6
《物理障壁》 Ⅱ 常時 消費3
《剛力強化》 Ⅰ 身体 消費1
《生命強化》 Ⅰ 身体 消費1
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低めのアニマが並んでしまった。でもアニマのグレード上げると思ってるよりもキャパシティ消費するんだよな。
この構成でどこまで戦えるかだな。身体アニマでの補強はそんなに期待できないし。
リアルの武術勝負だと俺が勝ち越してるけど、オウカは油断できる相手じゃない。
自分がニヤついてるのが自覚できる。
オウカも獰猛な笑みを浮かべている。
ああ。
楽しいな!
「三本先取」
「OK。開始の合図は……これでいいか」
近くに落ちていた錆びた硬貨を拾う。
オウカに同意を求めて視線を送ると、こくんと頷きが返ってきた。
パチンと硬貨を指で弾く。
廊下の天井スレスレまで浮かんだ硬貨は、すぐにチャリンと小気味良い音を立て地面に落ちた。
スタート!
さぁ行くぞ!
俺は様子見。対してオウカはハンマーを上段に構えて飛びかかってくる。
そうだよな。お前はそうする。
リアルでなら迎え撃ってカウンターをとるところだが、ここじゃそうもいかない。
純粋にオウカの膂力が段違い過ぎる。
だから俺が取る方法は受け流しだ。
振り下ろされたハンマーの先端、頭の部分ではなく、その少し内側。
そこに刀を添わせ、力を横にずらす!
ドグァ、とめくれ上がる地面。オウカと目が合う。
「ふっ!」
「せっ!」
お互い短い息をつく。
俺は刀を即座に戻しオウカの腕を裂く。
オウカはめり込んだハンマーを、技術と膂力で無理矢理に引き抜き追撃してくる。
だが甘いな!
そのぐらいできるってのは想定済みだ!
それに俺もゲームのアバター体だ。
即応できるぐらいの身体能力はある!
顎を掠める振り上げの一撃を躱す。
反撃。首元。
横薙ぎ。屈んで躱す。
反撃。足を薙ぐ。
「“インパクトストライク”」
おっと流石にマズイな。飛び退って逃れる。
衝撃波が床を粉砕する。危ねぇ。
さて。
まだ状態異常が発症しない。
どんな対策アニマを積んだんだコイツ?
毒だけじゃない。呪縛と毒性麻痺も全く通ってねぇなこれ。
「あー何のアニマ積んだんだよお前」
「すごくいいのがあった。コガラシをメタれるような」
「マジかよ勘弁してくれ。と言うかお前それ見つけたからPvP挑んできたな?」
俺が言った瞬間、オウカは楽しそうな笑顔で飛びかかってきた。
「その……とおり!」
ギリギリで躱……せねぇ!
コイツ、飛びかかりからの振り下ろしを無理やり振り上げに変えてきやがった!
「“インパクトストライク”」
しかもスペルかよ!
「うっが!」
ガシャン、と衝撃音。
だが俺にダメージはない。
「え、何今の」
トーンの変わらない疑問の言葉をつぶやきながらも、オウカは攻撃の手を緩めない。
クソ、早速対策の一つがバレた。
まあこれは早々にバレることがわかりきってたからいいんだけどな。先に一つでも手の内を暴いておきたかった。
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●《物理障壁》
◇自身が攻撃された際に発動します。
◇物理障壁を生成し、自身への物理的ダメージを無効化します。
◇物理障壁には耐久値があり、無効化できるダメージ量に上限があります。
◇物理障壁の耐久値は時間経過で回復します。
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生み出された障壁は、所謂魔力的なイメージを抱かせる赤い盾のようなものだった。
一発で砕かれたけどな!
普段の攻略にはいいんだろうけど、相手が悪かった。
オウカの攻撃を防げたら、と思って装備したが、グレードが足りねぇんだろうな……。
「割れたけど」
「多分お前の攻撃力じゃなかったら割れなかっただろうな」
やっぱり割れたのはバレるよな。《忍耐》とほぼ説明変わんねぇからな。オウカはあっちをいっつも使ってるから、仕様を推測できて当然だ。
「へぇ。それじゃまず一勝もらう」
「はー?? イキってんじゃねぇぞ」
武器がぶつかり金属音が鳴り響く。
着実に、冷静に。
攻撃を見極めて刀を振れ。
状態異常が効いてるか効いてないとか関係ねぇ!
いつも通り、俺の戦法を徹しきれ!
冗談みたいな威力の攻撃を何とか凌ぐ。
着実に傷が増えていくオウカ。
だが、このまま状態異常を付与できなかったら順当に負ける。
どんな仕様だ?
状態異常に対する完全耐性とかは流石にありえねぇだろ。
《毒耐性》とかの効果で状態異常をそれぞれ個別に完全シャットアウトしてるって可能性もないではない。でも流石にそれはキツい。キャパシティカツカツになる。
自分から攻めるタイプのビルドなのにそれを捨てたら中途半端極まりない。
んで、『メタれるような』アニマってことは、何種類も積んでるってわけじゃない……とは思う。
だったら、時間制限か容量制限があると見るべきだ!
「チッ」
俺の攻撃が手首を切り裂き、オウカが舌打ちを漏らした。
コイツは痛覚がないんじゃないかと思えるほど痛みに耐性があるが、流石に看過できねぇだろ! 痛けりゃ力も入れづらい!
そして若干……ほんの若干だが、オウカの動きが鈍る。
続けて一撃。
今度は明確にオウカの肌に、うっすら紫色の鎖じみた模様が浮かぶ。呪縛状態だ。
やっと状態異常が効き始めた!
このまま押し切る!
が、そこでオウカは、自分から体を攻撃の軌道上に置く。
刀が思い切り首を切り裂く。
だが何かに阻まれるような感覚はない。
恐らく《忍耐》は発動していない。
だああやられた!
わざと攻撃を食らって《復讐》を発動させるつもりだな!
「“マキシムストライク”」
橋を一撃で粉砕した威力超強化の一撃だ。
《復讐》、《逆境》のボーナス付き。
喰らったら死ねる!
だが俺は今、刀を振り抜いた体勢だ。
回避は間に合わねぇ!!
刀を手放し、腕を前でクロス。
少しでもダメージを減らすために動け!
耐え抜けば勝機はある!
凄まじい威力が俺に直撃。
腕が粉々になるような痛み。
ボールみたいにふっとばされた俺は、痛む腕で無理やり体を起こした。
瀕死だ。だが。
オウカは苦しそうに胸を押さえ、そのままドサッと倒れた。
そしてその体がポリゴンになって分解されていく。
《反撃毒》だ。
コイツは食らった威力に応じて付与する毒も強力になる。
あんなバカみたいな一撃を喰らったら、当然付与する毒も相応なものになるわけだ。
で、状態異常対策が切れ、しかも瀕死の状態で超強度の毒が付与されたら死ぬ。
推測通り、《忍耐》は毒のダメージは無効化してくれないらしい。
格好はつかねぇけど、とりあえず一勝だ。
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