47.弱点


「さて、そちらも私と戦う準備ができたようで……」


「「「「っ……!?」」」」


 俺を含めギルドメンバーの心が整ったことを見越したのか、依頼人の雰囲気が一転してに変わるのがわかった。


 姿は同じだし身構えてるわけでもないのに、ここまで変貌してしまうものなのかと恐ろしくなるほどだ。


「――んじゃ、いっくぜえええぇっ!」


 口火を切ったのは拳聖ルアンだ。正直この空気で行くのは凄く勇気がいることだと思うんだが、彼女の場合大事なのはそこじゃなくて、あくまでも拳を叩き込む瞬間だから思い切れるところがあるんだろう。


「フフッ、素晴らしいぞ。よい動きだ……」


「こ、こいつ……舐めるなああぁっ!」


 って、凄いな。拳聖に対して褒める余裕があるなんて。ルアンは顔を真っ赤にして攻めてるが、依頼人は寸前のところでかわしていた。


 これはギリギリで避けてるわけじゃなくて、余裕があるっていうのがステップ等、動き方で大体わかる。しかもあの分厚い鎧を着ている状態で。こんなの考えられないだろう……。


「ルアンさんっ、私も加勢しますねぇ……いでよっ、ホムンクルスッ……!」


 アイシャが意気揚々とフラスコを足元に落としてゴーレムを出現させた。これは墓場で依頼人が恐れたものだから効果があると踏んだんだろう。良い判断だ。


「むむっ……!?」


 やはり、依頼人が明らかに動揺した様子で逃げ回ってるのがわかる。足元に乱れも見えるしフェイクってわけでもなさそうだ。


「ホホッ、意外とゴーレムなんぞが効きまくってるようですわねえ。それではこのわたくしが、ポンコツ鎧にとどめを刺してやりますことよっ!」


 ジェシカが幻影術で自身の幻を量産し始めた。さすがのクオリティで、どんどん依頼人に立ち向かっていく。


「うぉっ!? こ、これは、凄いではないかっ……!」


 依頼人が驚いた様子でかわそうとするも、それでも偽者に紛れたジェシカの攻撃が命中しているのがわかる。ただ、あまり効いてないのが丸わかりだ。いい攻撃が当たってるように見えるんだけどなあ。


 それだけ鎧と本人が丈夫ってことなんだろうが、ゴーレムから逃げ回りつつたまにジェシカ本人に当てられても、反撃に出ようとはせずルアンの攻撃だけは避けてるってところが興味深い。拳聖の一撃にだけは相当気を遣ってるってことだ。


「――あうっ、そろそろゴーレムさんが消えちゃいますよぉ……」


 弱り顔のアイシャの台詞からまもなくゴーレムは消失した。とうとう時間切れか。それによって余裕が出たのか、依頼人の避ける動きがどんどん良くなっていきジェシカの攻撃がまったく当たらなくなった。癖も読まれてきてるっぽい。これじゃもう難しいな。というか、こんなに短時間でジェシカの弱点を見抜くとは。


「では、そろそろ私が攻撃に転じるとしようか……」


 依頼人の台詞でみんなの士気が若干下がるのが感じ取れるが、俺はその逆だった。本当にワクワクしている。動き方にしても癖が見られないし、根っからの戦闘狂だとわかるからだ。これは最高に楽しませてくれそうだ……。




 ◇◇◇




「な、なんなんだよー! あの甲冑野郎、バカケインよりもずっとすばしっこいんじゃねえの!?」


 激しい戦いが行われている丘の上を見上げながら、一様に驚愕の表情のクラークら【聖なる息吹】の面々。


「確かにそうですねえ……。あの素手騎士さんは、あんな分厚い鎧を着てもアホクラークさんよりずっと力強い感じですしねえ」


「あ!? バカケイン! おめー、俺とやんのか!?」


「はあ? アホクラークさん、僕は別にやっても構いませんけどお?」


「ちょっと、クラーク、ケイン、そんなくだらないことで喧嘩しないの。それより、銅像マンって魔法も当ててみたけどまったく効かなかったのよね。あいつの弱点って一体何……?」


「生きた鎧の弱点ねえ……なんなんだろうねえ。弱点なんてなさそうだし、要するにかねえ――ひんっ……!?」


 唐突にカタリナの胸をわしづかみにするエアル。


「な、な、何をしてるんだい、エアル……?」


「あれ? この胸、弱点なんてないんじゃなかったー?」


「そ、それは……ンッ……って、じゃっ、弱点はあるって認めるからそろそろ離しておくれよおっ! そ、それにエアル、あんたのその笑顔が怖すぎるんだよっ!」


「ふふっ……まあまあ、女同士なんだし……って、クラークもケインも涎垂らして見ないのっ!」


「「……はっ……!」」


 いかにも名残惜しそうに遅れて視線を逸らすクラークとケインであった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る