46.夢想的
「このままでは日常生活を普通に送ることは到底できない……そう考えた私は、父が使っていたこの甲冑を装着することにした。確か、力をかなり制御する効果のある特殊な鎧だと生前仰っていたから、見た目は悪いがそれに縋った格好なのだ……」
「なるほど、それでそんな厳つい鎧をいつも着ていたのか……」
というか、制御していてあのパワーなんだな。その話だけでも、指一本で人を吹き飛ばしたっていう突拍子もない話に信憑性が宿るってもんだ。
「そうだ。これがなければ無自覚に人を傷つけてしまうから。だが、この鎧を着て生活を始めたことで、今度は見た目で苦労することになってしまった……」
「「「「ははっ……」」」」
俺たちはなんとも苦々しい笑い声を重ねることになった。心当たりがあまりにもありすぎるからだ。
「私はさらに孤独になり、寂しくて寂しくて仕方なかった……。なので、記憶をなくしたと嘘の依頼を出したり、こうして誰かと勝負できるような依頼を出したりと人との接点を求めたが、事態はなんら変わらなかった。私自身がもう、極度のコミュ障な上に強くなりすぎてしまっていたから……」
「そうだったのか……。じゃあ、豪商の屋敷で横たわっていたのは?」
「あれは……実はその前に誰にも迷惑をかけぬようにと墓地の茂みで眠っていたのだが、恐ろしい化け物が出てきた夢を見たため、屋敷なら騎士の銅像に成りすませるのではないかと忍び込んだところで、寝不足だったこともあって限界が来てしまったのだ……」
「な、なるほど……」
そうか……じゃああの墓地にいたのも同一人物だったわけだ。まあよく考えたらゴーレムや墓石を体当たりだけでバラバラにできるくらいだしな。色んな謎について考えるのは楽しいが、それがどんどん解き明かされていくこの感じも悪くない。
「そういうわけで、私はいずれ狂った戦闘マシーンになる前に誰かに倒されたいと思っている」
「でも、倒されたからって別にあんたが弱くなるわけじゃないんじゃ……?」
「いや、確かにそうなのだが、私を倒せるくらいの人と一緒ならそれだけ制御できるということだから、その人となら人間らしく生活できるかもしれないと思ったのだ」
「なるほどなあ……」
俺は深くうなずいていた。確かに一理ある。逆に倒せるくらいじゃないと、彼女のパワーを治すことも難しいだろう。相手に対する信頼というのも回復術にとっては重要なことだからだ。
「というわけだ。アイシャ、ルアン、ジェシカ、戦う準備はできてるか?」
「は、はひっ。できてましゅううぅ」
「で、で、できてるぜっ!」
「ででっ、できてやがりますですことよっ!」
「……」
まだダメだな。まああんなとんでもない話を聞いた直後だからわからんでもないが、回復術ではこういうのを恐怖の連鎖反応効果といって、一人だけ治しても恐怖が伝染するのでまったく意味がないんだ。というわけで全体精神回復魔法を行使する。ある言葉とともに。
「お前たち……ロマンティックに決めてやろうじゃないか」
「「「……えっ?」」」
ここで大事になるのは、意味不明な言葉を発して恐怖の目先を一瞬逸らしてやることなんだ。このタイミングで回復術をやると非常に効果的になる。
「もう大丈夫か?」
「「「あっ……!」」」
反応も速いし大丈夫そうだな。よしよし、これでようやく戦える……。
◇◇◇
「「「「……」」」」
小高い丘の頂上で会話する者たちの様子を、伏せるようにして神妙な表情で窺う面々がいた。【聖なる息吹】ギルドのクラークたちである。
「ラフェルの野郎はよ、あのクソつええ甲冑野郎を倒してほしいっていうとんでもねえ依頼を受けた。つまり、あいつでもどうなるかわからねえってことだ」
「そうね。さすがにラフェルたちでも厳しいっしょ。あの銅像マン強すぎだもん」
「ラフェルさんもまあ、連れの優秀さもあって頑張ってましたが、素手騎士さんはパワーも桁違いですしここで遂に終わりでしょうねえ」
「そうだねえ……あの生きた鎧は確かに異次元の強さだし、あたいも今回ばかりは危ういとは思うよ」
マスターのナセル同様、メンバーのエアル、ケイン、カタリナの三人もまた、ラフェルたちが甲冑姿の人物を倒すのは厳しいという意見で一致していた。
「おめーらもよくわかってきたな。さすが俺のギルドメンバーだぜっ! だけどよ、こっからが重要なんだよ! 万が一あいつらが頑張って双方が弱るような展開が来たら、俺たちが飛び出してラフェルを助けて難敵を一緒に倒す……どうよこれっ、メチャクソ燃える展開だろうがっ!?」
「いいですねえ。仲間にさえできれば、アイシャちゃんもルアンちゃんも僕のものにしてみせますよ。むふふっ」
「じゃあ元受付嬢のジェシカは俺のものな! 生意気だと思ってたしよ、もうちっとおっぱいが欲しいところだが、よくよく考えてみりゃあのS具合がたまんねえぜ!」
「「はあ……」」
エアルとカタリナの溜息が珍しく重なるのだった。
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