36.奇天烈
「「「「なっ……」」」」
早速、あれから俺たちはフェリオンの町の中央にあるっていう公園に向かったわけだが、ベンチで座っている人物の風貌にとにかく驚かされた。
性別も年齢もわからない、全身を覆うタイプの甲冑姿な上、項垂れたまま微動だにしないしそういう格好をした銅像のようにすら思える。
「な、なんだか怖いでしゅう……」
「すげー分厚い鎧だな。どれくらい頑丈なのか試しに殴りたくなってくるぜ……」
「ホホッ、さすがは野蛮な殴り屋ですことっ」
「うるせー」
「こらこらっ、喧嘩はダメですよー」
「「あぁ!?」」
「あうう、怖いでしゅう……」
「……」
俺だけで行ったほうが波風を立たなくて済みそうだな……。
「みんな、ささっと治療してくるからここで待っててくれ」
「「「了解っ」」」
相手も集団で来られるより一人のほうが気楽だろうしな。しかし、これじゃ不気味すぎて、普通なら依頼を受けようとした人間は見ただけで尻込みするか、あるいは逃げ出してしまうだろう。もっとも、俺からしてみたら好奇心のほうが強いが。
「もしもし……? あんたが例の記憶喪失の方?」
「――あっ……」
俺が近付いて声をかけると、少し間を置いて甲冑姿の人物が顔を上げてきた。もちろん兜で覆われてるので声がくぐもってて表情すらまったく見えないわけだが、なんで公園でこんなのを被ってるのやら……。
「そ、その通りだっ。私が今回、記憶喪失を治してもらいたいと依頼した、ミス――」
「――ミス……?」
「あ、いやっ! 言葉を訂正しようとしたのだっ。えー、記憶喪失を治していただきたいと依頼した者だ……」
「……」
あんまり前と変わらないような。まあいいか。
「じゃあ、治療を開始するよ」
「お、お願いいたす……」
治療する前にまず話をする必要がある。記憶喪失者にとって関連するもの、その中でもなんとなく気に入っている場所や肌身離さず持っているものが鍵になってくる。それを聞き出すことが記憶を復活させるために重要なわけだ。
「あんたが気に入ってる場所とかは?」
「き、気に入っている場所、であるかあ。んーむぅ……」
依頼者が考え込んでる様子。やはりすぐには難しいか。それにしてもなんかやたらともじもじしてるな。照れてるだけなんだろうが、格好が格好なだけに異様さが際立つ。
「や、やはりそこは、見晴らしのいい郊外の――」
「――郊外の?」
「あ、いや、それは間違いで、この中央公園だろうか……」
「……」
この公園かあ。今は何故か俺たち以外に誰の姿もないが、こういう場所は色んな人間がなんとなく立ち寄るようなところで、そこにだけ抱くような特別な感情が薄いから記憶再生の鍵にするとなると曖昧すぎて厳しいんだよな。
「じゃあ、気に入ってる持ち物とかは何かあるかな?」
「え、ええっと、ハイレグ――」
「――え、ハイレグ……?」
「い、いやっ! 今のも間違いであるからしてっ! お、お気に入りは、この鎧とかっ!」
「ああ、じゃあ触らせて――」
「――さ、触ってはダメだっ!」
「えっ……」
今の、凄い剣幕だったような……ってことは、こういう場所なのにわざわざ着ていることもあって、気安く触れられたくないくらい相当に大事な鎧なんだろう。
「あまり近付かれたら照れてしまうから――」
「――はあ……?」
「あ、そ、そうではなく……この鎧はところどころ角張っていて怪我をしやすくて危険ゆえ、迂闊には触らぬほうがよいのではないか、と……」
「そ、そうなのか……」
こっちとしては触診できたほうが都合がいいんだがしょうがない。近くでじっと視診することで、鎧から記憶回復につながる再生エネルギーを抽出せねば。
かなり頑丈で重そうな鎧だし、ところどころ傷やへこみがあるのもわかるから、これを着て戦士として活躍していたに違いない……って、またもじもじしてるな。相当シャイな子なんだろうか。
「かつては冒険者だった、とか……?」
「あっ……! そ、そうだ、今思い出した! 私は冒険者として活動していて、疲れてフラフラと歩いていたら木にぶつかって倒れ、記憶を失っていたのだ!」
「「「「えっ……?」」」」
それまで黙って聞いていた仲間たちとの声が重なる。というか、みんないつの間にか結構近づいてたんだな。おそらく何を話してるか気になったんだろう。
「これは記憶が完全に元に戻った報酬だ! ありがとおおおぉぉっ……!」
「「「「……」」」」
いや、治療に関してはこれからの予定だったんだが……。あまりにも唐突すぎる結末だった。俺としては不服だが、まあ偶然でも元に戻ったんならいいか。しかもFランクの依頼の報酬なのに銀貨を3枚も投げてくれたし、完全に当たりの依頼だったな。
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