37.前衛的


 周囲がどんどん暗くなる中、俺たちは依頼を達成したってことでポーション屋台を引きながらギルド協会へと向かっていた。既に報酬を貰ってるということもあって、行商よりも例の個性的な人物に関する会話中心だった。


「あの甲冑姿の依頼人は本当に謎が多いな……」


「ですねえ。ラフェルさんみたいな変わり者ですっ」


「なんか言ったか、アイシャ?」


「いえっ」


 もしかしたら極端な照れ屋だから鎧を着てるんじゃないかとも思ったが、それだとちょっと無理があるしなあ。


「顔を見られたくねえとか? 怪我してるとかで」


「それなら兜だけ被ればいいだけの話でございますわ」


「はあ? 兜だけだったら不自然だからってことで鎧をセットで着こんでるのかもしれないだろ!」


「どっちにしろ周りから浮きまくりですから、兜だけのほうがいいのですわっ」


「くっ……!」


「……」


 確かにジェシカの言う通りだ。顔に怪我をしてるなら兜を被る、あるいは仮面のようなものでもいいはず。それに、そこまで酷いものならそれも治療対象に入るに決まってる。頭からつま先まで鎧に覆われてるのは何かほかに別の理由があるからなんだろう……っと、ギルド協会が見えてきた。とりあえずあいつのことは忘れて依頼を攻略したことを報告しよう。




 ◇◇◇




「ったく、なんなんだよ、この町はよ……。ぶっ壊れてる建物とかひん曲がってる街路樹はよ、こいつらアホ住人どもにとって芸術アートかなんかなのか!?」


【聖なる息吹】ギルドの一行がフェリオンの町のギルド協会に向かう中、マスターであるクラークの毒舌が冴え渡っていた。


「あはっ。クラークったら聞こえちゃうって。でも、みんな素通りしてるしそうなのかもねえ。この町って歴史があるって聞いてたから堅苦しい印象あったけど、結構先進的なのね」


「まあ僕にとってはこんな前衛的なものより女体こそが至高の芸術ですけどねえ」


「ケイン、おめえってやつは……やっぱり話が合うじゃねえか!」


「「握手っ……!」」


「ったく、アホ男どもはすぐこれなんだから……ねえ、カタリナ?」


「……あ、ごめん。空腹のあまりぼーっとしちゃってたよ。あたいの場合は胸に栄養が行き過ぎちゃってるってのもあるのかもだけどねえ」


「……うざ」


「何か言ったかい?」


「ううんっ」




 ◇◇◇




「「「「……?」」」」


 俺たちはギルド協会の受付嬢の言葉に驚いていた。なんと、今回の依頼を攻略したことで、一発で【悠久の風】ギルドがFランクからEランクまで上がるらしい。まるで冒険者ランクのようなあっさりとした上がり方で、特例というのもうなずける。


「はい。今回のFランクの依頼の達成に関しまして、協会に喜びの声が沢山届いているのです。お子様からご老人の方まで、幅広く集う中央公園に居座る怪しい人物を追い払う格好となったのですから……」


「「「「なるほど……」」」」


 報酬もFランクにしては破格だったし、誰も受けないような依頼をこなしたことで最高の結果になったわけだな。


「よーし、この報酬でちょっとランクの高いホテルに泊まるか」


「おー、いいですねえ! 久々にぎゅーしますかあ!」


「おいおい……」


「ラフェルは俺の旦那なんだから俺がぎゅーしてやるぜっ!」


「まあ、二人ともなんて野蛮ですことっ。ラフェル様をぎゅーしまくるのはこの上品極まるわたくしだけで充分でございますわよっ!」


「……」


 これはまずい。アイシャの『ぎゅー』がメンバーに浸透し始めてきちゃったな。痩せている身としては頭が痛くなってきた……って、は……。


「ラフェルさん、どうしましたぁ?」


「どうしたんだ、ラフェル?」


「ラフェル様、どうしやがりましたか?」


「あ、いや、なんでもないんだ。行こうか」


「「「了解っ!」」」


 俺はみんなを引き連れるようにしてすぐにギルド協会をあとにしたわけだが、さっき見た光景がまだ頭の片隅に残っていた。


 ちらっと見ただけだが、それにしても元所属ギルド【聖なる息吹】のクラークたちによく似た集団だったなあ。でもあんなにボロボロなはずないし、そもそも都にいるはずのあいつらがこんなところにいるとは思えないしな。ただの気のせいだろう……。

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