35.似た者同士
「――ここか……」
俺たちは途中で町の住人に道を尋ねつつ、大通りに面したギルド協会まで無事にたどり着いた。
入口の看板までもがこの上なく捻じ曲がってて文字がよく見えなかったが、立ち話をしていた年配の老人たちとの会話によって、この町はフェリオンという名前で結構な歴史があることもわかった。
そこで破壊されてるものについても聞いてみたんだが、自分たちでもわからないとのこと。ってことは、別に騒がれてもいないし被害は極一部ってわけなのか……。
そういや、町の名前だけは子供の頃に親から聞いたことがあると今思い出したものの、それまで完全に記憶の外だった。思えば回復術ばかりにのめり込んでたからなあ。アイシャ、ルアン、ジェシカも知らないっていうし似た者同士が集まってるのかもしれない。
「それにしても、約350年前からあるって凄いな」
「凄いですねえ!」
「すげえよなあ。薄っぺらい歴史しかねえエスカディアの町とは大違いだぜ」
「陰気で野蛮な殴り屋は少しは黙りやがれでございますよ?」
「「ふんっ!」」
「「あははっ……」」
いつものやり取りを俺は水に流すようにアイシャと笑い合ったあと、早速協会の依頼スペースでF級の依頼の貼り紙を探すことにした。街並みを無惨な状態にした犯人についても気になるが、それについては依頼を攻略していくうちにわかっていくだろう。
ギルドの依頼にも色々あって、すぐに上げるコツとしてはあまり冒険者の関心が湧かないような、いかにも需要がない感じの依頼を受けることが望ましい。
ギルド協会としても、依頼が放置されてるというクレームが少なくなるだけじゃなく評判も上がって助かるし、同じ人間がやってることなので、彼らの歓心を買うことでランクも上がりやすくなるって寸法だ。
「――お、これなんかよさそうだな……」
ってことで俺が最初に選んだのはこれだ。
ランク:F
依頼者:匿名希望
期限:無期限
報酬:無し
依頼内容:
私はこの町の中央にある公園のベンチに座っている。記憶がない状態なので、それを治していただきたい。報酬は今のところ何も持ち合わせてはいないのだが、記憶さえ戻ればもしかしたらお返しできるかもしれない。
「「「えぇ……?」」」
みんなの反応がなんだか厳しいな。
「い、いくらなんでも報酬がないのはきついと思いますよ、ラフェルさあん……」
「そうだよラフェル……もし記憶が戻ったときにお金とか持ってなかったらどうするんだ?」
「ただ働きなんてまっぴらごめんですわ……」
「アイシャ、ルアン、ジェシカ、これには考えがあるんだ」
「「「考え……?」」」
「あぁ。俺からしてみたら、記憶を治す回復術ほど簡単なものはなくてな。ほぼ一瞬で終わる。だからただ働きってほど大袈裟なもんでもないし、これで報酬が入るんなら儲けもんだろう?」
「「「確かに……」」」
みんな納得してくれたようだな。実際のところ、治療が簡単かどうかは記憶喪失の程度にもよるんだが嘘も方便だ。よし、早速約束の場所へと向かうとしよう……。
◇◇◇
「「「「はぁ、はぁ……」」」」
黄昏の中、フラフラとした足取りでようやく次の町にたどり着いた【聖なる息吹】ギルドの面々たち。
その場に座り込んで放心した表情になるほど疲弊している様子であったが、まもなく気怠そうに立ちあがったカタリナの回復術により、ギルドマスターのクラークを筆頭に全員が次々とすっきりした顔になっていく。
「ふう……って、な、なんなんだよここは……色んなところがぶっ壊れまくってんじゃねえか。まさか、また幻覚とかじゃねえだろうな……!?」
クラークの顔が見る見る青ざめていく。というのも、彼を筆頭に頑丈な鉄格子に閉じ込められていると長らく思い込んでいたが、エアルに追い詰められたアルバートが鉄格子を破りながら逃げたことで、ようやく幻覚に惑わされていたと気付いたからである。
「も、もう嫌よ。幻覚なんてもう沢山……」
「ええ、そうですとも。僕もあなたたちのような仲間は……い、いえ、幻覚はお腹いっぱいです……」
「あたいも、もう幻覚なんて懲り懲りだよ。てか、お腹は減りっぱなしなんだけどねえ……」
「そっ、そういえば、あたしもお腹すいちゃったあ……」
「エアルさん、僕もです……」
「ケイン、俺もだ……って、今は金なんてねえからとりあえずギルド協会探すぞ、おめーら!」
「「「うい……」」」
いかにもやる気のなさそうなメンバーの返事が、どんよりとした空気とともにしばらく周囲を漂うのであった……。
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