34.屈折
「――お、なんか町が見えてきたな……」
エスカディアを発って以降、延々と続いた荒野を抜けた先、ぽつぽつと草木が生え出したフィールドの奥から、なんとも控えめな建物群が俺たちに顔を見せ始めた。
「ですねえ。エスカディアに比べると凄く小さめですけどっ」
「俺はあれくらいの規模のほうが気楽だから好きだぜっ」
「ホホッ、随分と矮小な町でございますこと……。わたくしの作った町が再評価されるときが早くもやってまいりましたわねえ?」
確かにアイシャ、ルアン、ジェシカの言う通りこじんまりとした町で、あのエスカディアから来たっていうのもあってか町というよりも村のようなスケールだと感じてしまう。
こういう風にポーション屋台を引いて、周りの景色を見渡しながらゆっくり行商するくらいじゃないと見逃してしまいそうなところだ。以前だととにかくギルドのランクを上げるためにと合理的に動いてたから、町については主要都市くらいしかわからなかった。
「へっ……エスカディアの町なんて立派なように見えるけどよ、あんなの幻で水増ししてるだけだろ。なあジェシカ」
「み、水増しですって……? あれはれっきとした幻影術ですし、わたくしの実力ですことよ? ルアン、貧乏臭くてたまりませんので、嫉妬はよくありませんわ」
「だっ、誰が幻なんかに嫉妬するかよ、この阿婆擦れがっ……!」
「ホホッ、あなたは精々ご自慢の拳でも雑巾で磨いてやがれでございますよっ!」
「ははっ……」
「ふふっ……」
ジェシカとルアンが相変わらずバチバチやってるので、俺はアイシャと苦い笑みを向け合う。まあ昔から喧嘩するほど仲がいいっていうし、ギルドマスターとしてはそこまで心配してない。二人とも素直じゃないように見えるが根はいい子だからな。多分……。
「「「「……」」」」
あれからほどなくして町に到着したわけだが、俺たちは驚いた顔を見合わせていた。建物がくの字にぐにゃりと曲がってたり街路樹がことごとく折れ曲がっていたりと、オーガか何かが暴れ回ったんじゃないかっていうくらい、色んな箇所が尋常じゃない壊れ方をしていた。
「酷いな、こりゃ……」
「ふえぇ……本当に酷い有様でしゅう……」
アイシャが声を上擦らせるくらいにはとんでもない光景だ。なのにそこら中に死体が転がってるわけでもなく、住人たちが何事もないように普通に往来してるのが却って異様な雰囲気を作り出していた。
「ジェ、ジェシカが俺たちを驚かせるために幻影術を使ったんじゃねえの……?」
「は、はあ? わたくしはやってませんわっ! ルアンが先回りして破壊しやがったんでしょう!」
「そっ、その動機は一体なんなんだよっ!」
「ホホッ! どうせご自慢の拳を試したかったのでしょう! というわけですのでラフェル様、ルアンに罰を与えてくださいましっ」
「ラ、ラフェル、そんなの出鱈目だ! むしろジェシカに罰を与えてやってくれ!」
「いや……これは幻影術でもなければ拳聖の拳によるものでもない……」
「「えっ……? ってことは……」」
ジェシカとルアンの見開かれた目がアイシャに向けられる。
「わ、私は何もしてませんでしゅうう!」
「いや、アイシャのホムンクルスの仕業でもないだろう。あれを見てくれ」
「「「あっ……」」」
俺が指差したのはいかにも屈強そうな一団で、彼らが持っている剣、槍、斧、棍棒等、よく見ないと原型がわからないくらい、いずれもありえない曲がり方をしていた。剣なんて刀身部分が見事に渦巻状になってて寒気まで催してきた。一体どれだけ凄まじい圧力が加わったらああなるんだ……。
何より彼らの様子だ。誰もが呆然自失とした顔で、心がぽっきりと折れてしまってるのが傍から見てもはっきりとわかるほどだった。何があったのか話を聞いてみるか。
「なあ、ちょっと聞きたいんだが――」
「「「「「――ひっ……」」」」」
「……」
声をかけた途端、揃って逃げるように走り去られてしまった。よっぽどのトラウマみたいだし、追いかけてまで詮索するのはやめたほうがいいか。
「多分、あいつらは何かを倒してほしいっていう依頼を受けて、その何かにこっぴどく返り討ちにされた格好なんじゃないか? この町の惨状もそれに起因してるような気がする」
「「「なるほど……」」」
「よし、この町のギルド協会に行ってみるか」
「「「了解っ!」」」
というわけで俺たちは目的地へと向かって歩き出した。いずれは自分たちだけの町とかも作ってみたいし、旅団ギルド【悠久の風】のランクもいい加減上げておきたいんだ。
ジェシカが幻を含めた大勢の人間を顎で使い、長い日数をかけてようやく【正義の杖】をSランクまで上げたというやり方は、正直その分反発も多そうで真似できないというか真似するつもりもないが、俺も一度前所属ギルド【聖なる息吹】をAまで上げてるだけにコツはわかっているつもりだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます