28.顔見知り


 偉そうな大臣と兵士たちに案内されてついていくと、複雑な模様があしらわれた重厚な扉にたどり着いた。この向こう側が玉座の間か。


 ――チリン、チリリンッ……。


 合図なのか大臣がベルのついた杖を軽やかに振り、それからほどなくして内側から徐々に扉が開かれていく。おそらく、ベルの鳴り方が少しでも違ったら異常事態として扉は開けられないっていう仕組みなんだろう。【正義の杖】のギルドマスターがどれだけ用心深いかがよくわかる。


 扉が完全に開き終わると、俺たちは大臣らとともに赤い絨毯の道を進んでいった。本当に、パルメイラスの都も真っ青になるくらい立派な王城だな。短期間でどうやったらこれだけの構造物ができあがるんだろうか――


「――よくぞ参りましたね」


「「「あっ……!」」」


「これっ、陛下の前で無礼だぞ、ひざまずかんかっ!」


 大臣に叱られたことで俺たちはその場にひざまずいたわけだが、それでも玉座のほうに目をやらずにはいられなかった。


 そこにはが鎮座していたからだ。顔が似ているだけなんじゃないかとも思ったが、雰囲気まで似るようなことはないだろうしまず本人で間違いないだろう。


「これはこれは……あなた方がわたくしの親衛隊として選ばれたのでございますのね……」


 紛れもない……彼女はどう見てもギルド協会にいた例の受付嬢だ。玉座に座ってるだけあって着飾ってるが、あのなんともいえない毒々しさはわざとやってんじゃないかっていうくらい全然隠せていない。


 なるほど、それでたかが受付嬢なのに違うギルドに対してあれだけの忌避反応を示したのか。それと、自ら冒険者と接することで信頼できる者を見極めるっていう狙いもあったのかもしれない。


「はっ……」


 俺は一瞬、心臓が止まるかと思った。もしこれが初めから巧妙に仕掛けられた罠だったとして、ここで一斉に攻撃された場合、多勢に無勢で負けてしまう可能性が非常に高いからだ。


 彼女とは一度揉めてるだけに、俺たちがこのギルドを解体しようとしてるのがバレバレだったのかと肝を冷やしたわけだが、今のところ襲ってくる気配はなかった。


 ってことは、普通に信頼してるのか、あるいは俺たちを疑ってるものの心変わりさせる自信があるのか……どっちにしろ、もっと信頼させて彼女と自分たちだけの状況を早めに作り出すしかない。


「こりゃ! お前たち陛下の御前で何を黙っておるか! 早く自己紹介せぬかっ!」


 相変わらずうるさい大臣だが、ここでは勝ち目が薄いので大人しく従ったほうがよさそうだ。


「あ……失礼いたしました、陛下。俺は回復術師でラフェルといいます」


「わっ、わたひはっ、わたひはあっ……! 錬金術師のアイシャと申しますっ!」


 アイシャが緊張しててまともに話せない様子だったので回復術でカバーしておいた。


「お、俺は拳聖のルアンっていうんだ……!」


「これっ! 敬語を使わんかっ!」


「うっ……!? お、俺はルアンだ……じゃなくて、ルアンですだっ……!」


「……」


 ルアンの台詞が面白かったのか、周囲から押し殺すような笑い声が上がる。彼女にとって敬語を使いこなすのは宙を一万回殴るよりも難しそうだ。


「ふふっ、あなた方は誉れある親衛隊なのだし、別に敬語は使わなくてもよろしいですのよ? わたくしはジェシカと申しますの。これからの身辺警護、よろしくお願いいたしますね……」


「「「りょ、了解……」」」


 俺たちは返事しつつお互いに顔を見合わせる。普通に喋っていてもどうしてもあの恐ろしい受付嬢の姿が脳裏をよぎってしまうし、二人ともそうなんだろう。それでも恐れすぎると何か疚しいことでもあるんじゃないかと警戒される可能性もあるので、俺は回復術で自分たちの恐怖心を抑えることにした。


 とりあえず親衛隊として身辺警護を任されたことで一つの山は乗り越えられたように思うが、まだまだ安心はできない。回復術師としての勘として、このジェシカっていう女が桁外れの狂気を背負ってるのは確かなので、一対一になって病を治す状況になったとしても苦戦することが予想されるからだ。


 それでも、必ず病の正体を突き止めて治してやるとともに、この【正義の杖】ギルドを解体まで追い込んでやるつもりだ……。

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