27.明暗


「「「「「ワーッ!」」」」」


 壇上に立った途端、耳をつんざくような歓声が沸き起こる。


 あれから俺たちは見回りとして選ばれてから早々にスパイを発見&撃退したとして、エスカディアの王城のロビーまで招かれ、盛大な親衛隊就任式の真っただ中にいた。


 どこにこれだけの人が隠れてたのかって驚かされるくらいの賑やかさだな。もっとも、誰もかれもが不自然な笑顔を作りつつ刺々しい空気を発してたが。さすがは病気が蔓延してる町の中心部分なだけある。


 それでも、三人とも親衛隊に選ばれたんだし今のところこっちの目論見通りってわけだ。これが終わったら玉座の間で王様――【正義の杖】のギルドマスター――と謁見できるみたいだし楽しみだな。ようやく病根と対峙できそうってことで、回復術師としての血が騒ぐのか心臓が異様に高鳴っていた。


「ラフェルさんっ、それにしてもあの人たちがスパイだったなんて、私びっくりしました……!」


「ああ、アイシャが一番驚いてたもんな……」


 アイシャは現場に駆け付けたとき、アルバートら試験場での顔見知りがいたせいか、誰がスパイなのかわからない様子でしばらく右往左往しちゃってたからな。


「ラフェル、俺はやつらに対して以前から怪しいって思ってたぜっ! スパイとまでは思わなかったけどな!」


「まあ、ルアンはそうだろうな……」


 確かにルアンはあの現場でアルバートたちに思いっきり威圧してたから、それがかなり功を奏する形になった。格闘家の頂点に位置する拳聖にそれをやられたらまさに蛇に睨まれた蛙で動けなくなるのも必然だろう。


 あいつらが人質を取ろうとしてたわけじゃなくてスパイ同士で内ゲバを起こしてたっぽいのも大きいが。ただ、もう一方の勢力だけ全員覆面姿だったことから、スパイと盗賊の争いだったのかもしれない。まあそれでも豚箱行きは免れないわけだが――


「――親衛隊の回復術師ラフェル、錬金術師アイシャ、拳聖ルアンよ、陛下に御目通りする準備が整ったゆえ、直ちに参られいっ!」


 なんか大臣っぽい爺さんが出てきたかと思うと、ベルのついた杖を向けながら偉そうに指示してきた。いよいよ俺たちは親衛隊として王に謁見できるのか。


 さて、【正義の杖】とかいうふざけたギルドのマスターがどんなやつでどれほど病的な面をしてるのか、治療する前にこの目でとくと拝んでやるとしよう……。




 ◇◇◇




「たっ、たのむうぅっ、ここから出してくれえぇぇっ……!」


 エスカディアの王城地下の牢獄にて、クラークの掠れた叫び声が響き渡った。


「おっ、俺たちは断じてスパイなんかじゃねえんだああぁぁっ……! 頼むううぅぅぅっ、信じてくれ、返事してくれえぇぇっ――」


「――おい貴様、いい加減に大人しくしないかっ!」


 錆びついた鉄格子を両手で握りしめるクラークの前に、一人の兵士が苛立った様子で駆けつけてくる。


「お、おぉっ……! へ、兵士さん、これは誤解だっ、冤罪だっ!」


「冤罪だと……? その証拠はあるのか!?」


「あ、あるっ! それは、俺たちのギルドが【正義の杖】じゃなくて【聖なる息吹】ってことだっ! なのになんでスパイ扱いされるんだよ! ギルドカードだってちゃんとほら、ここにあるっ、あるんだからよお! しっかり調べてくれえぇっ!」


「ふん、そんなものは既に確認済みだ」


「じゃっ、じゃあどうしてええぇっ……!」


「黙れ。ギルドが違うのは、あえてそうすることでスパイじゃないと信じさせようとする工作の一種だろう。卑劣なスパイどもがよくやる小細工だ」


「ぐっ、ぐぐっ……! お、おめーらも黙ってねえで、このわからずやに何か言ってやってくれ――」


 クラークは必死の形相で振り返るものの、そこで繰り広げられているを目の当たりにして急速に表情が失われていった。


「――ぐふふっ……僕だけのアイシャちゃん、ルアンちゃん……こっちに来ましょうねえ……」


 まばたき一つせずにブツブツと呟くケイン。既に目の焦点はまったく合っていなかった。


「あたしだけのアルバート様あぁぁっ! 髪の毛もう一本頂戴いぃぃっ!」


「たっ、たしゅけてええぇっ……!」


 エアルもまた至って病的な表情で、同じ獄中にいるアルバートを執拗に追いかけ回していた。


「このあたいがあんたを浄化してやるよ……」


「ひぎいいぃぃっ! もう許してほしいのであるうぅっ! ほげええぇぇっ!」


「あはっ! もっと泣きな、喚きなあっ!」


 カタリナに至っては、胸を触ってきた試験官の指を踏みつけながら時々回復するという、なんとも痛々しい拷問を恍惚とした表情で愉しんでいる様子だった……。

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