14.独裁ギルド


「――こ、これは……」


 エスカディアのギルド協会に到着したわけだが、都のものに比べるとやたらと人が少なくて、本当にここが協会なのかと一瞬疑うほどだった。


 なんだこりゃ……依頼スペースにしても、【正義の杖】というギルドを抜けようとしている者や、同ギルドの悪口を言った者を捕まえてほしいとか、特定のギルドに関する妙な依頼ばかりなんだ。


「多分、ここに書かれてる【正義の杖】っていうギルドのマスターがこの町を作ったんだろうな」


「で、でしょうね。でも私が思ってたギルドとは違ってかなり窮屈な感じですけど!」


「俺も。ギルドっていうより、これじゃあなんか独裁国家みてえだ」


「ああ、そうだな……」


 アイシャとルアンの言う通りだ。ギルドといえばメンバー同士で団結し合うのが基本だが、自由なのが前提で色んな考えの人間がいてしかるべきであって、これは束縛が行き過ぎていていかにも病的な感じになってしまっている。


 こういう依頼ばかりであること自体、ギルドが腐りかけてる証拠だ。最初のほうで見かけた横暴な門番や陰鬱そうに歩く人々を見ても、この町全体が重大な病に罹ってしまっている、そんな印象だった。早く感染源を取り除かなければ大変なことになる予感がする。


「ラ、ラフェルさん、どうしましょう……!?」


「ど、どうする? ラフェル……」


「んー……とりあえずなんでもいいから依頼を受けてみるか。まずは金を稼がないとな」


「「了解っ!」」


 俺は適当な依頼を選び、不安げなアイシャとルアンを連れて受付嬢のところまで歩いていく。王都パルメイラスのギルド協会と違って行列もなくスムーズに行けたが、その代わりのようにどこか暗い場所からこっそり覗かれてるような不気味さがあって背筋が寒くなる。誰もが常にお互いを監視し合ってる、そんなおぞましい空気なんだ。


「――あの、この依頼を受けたいんだけど……」


「はいっ、かしこまりました。ギルドカードをお出しください」


 お……こっちの不安とは裏腹に、透き通るような銀髪ロングヘアの美しい受付嬢に笑顔で迎えられた。


「……はぁ、違うギルドの方々なのですね……」


「「「え……?」」」


 ギルドカードの提出から一転して、受付嬢の顔が見る見る険しくなっていく。


「こちらの受付は【正義の杖】ギルドの方しか承ってはおりません。無名のしょぼいギルドに関しましては、目障りですのでおとといきやがれでございます」


「「「……」」」


 受付嬢から凄い形相で睨み付けられた挙句、ギルドカードを床に投げ捨てられる。あまりの変わり様に、俺たちはしばらく呆然とするしかなかった。


「お、おいおい――」


「――あ、申し訳ございません。足で踏むのを忘れておりました」


「「「えっ……?」」」


 この女、なんてやつだ。ご丁寧に俺たちのカードを靴で踏みつけてしまった。


「こいつっ!」


 ルアンが真っ赤な顔で前に飛び出そうとしたが俺とアイシャが制止する。


「と、止めないでくれっ!」


「ルアン、ここで手を出したら負けだ……」


「でしゅよ!」


「ぐぐっ……!」


 ルアンが下を向いて右手を震わせる気持ちはわかるが仕方ない。こういう周りが全て敵みたいな状況だと、考えなしにもがけばもがくほど引き摺り落とされる。それは公正な組織であるはずのギルド協会までもが【正義の杖】に染まっているのを見れば一目瞭然。


 おそらく、この病んだ状況をなんとかしようとした者も俺たち以外にもいたはずで、それが依頼を通じた取り締まりにも繋がってるんだろう。ここで俺たちが使うべきなのは、目に見える手ではなく中身が透けて見えない頭だ。いくらこっちに拳聖がいるといっても一人だけだし、町規模のギルドを相手にしたら数で圧倒されてしまう。


「ラ、ラフェルさん、どうしましょう……?」


「ラフェル、どうすりゃいいんだ……?」


「……」


 さて、どうしたらいいんだろう? 不安や心配、嘆きや焦りといったネガティブな感情は思考につきものだが、それらは小さな邪気を生み出していき、やがて体の中に降り積もって様々な病を発現させる。回復術では基本中の基本とされる事象だ。


 なので俺はまず、アイシャとルアンに対してなんでもないと言いたげに軽やかに笑ってみせた。早々にアイディアは浮かばずとも、こうしたポジティブさが思考による疲労の回復、周りに好影響を与えるとともに思わぬひらめきを生み出す。


「――よーし、いい考えを思い付いたぞ、アイシャ、ルアン……」


「「おおっ!」」


 俺の思った通り、早速が脳裏に浮かんできた。これならいける、いけるぞ……。

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